第14話 魔王様、お買い物です
「おお、街の中も人が凄いな」
「いっぱいー」
プルア村がどれだけ田舎だったのか、思い知る光景だった。
街は建物や道が整備されていて、石畳も綺麗に敷かれている。もちろん王都なんかと比べてはいけないんだろうけど、それでも十分に栄えているように感じた。
そんな街の中を歩いていると、大きな広場に出た。
そこでは大きな噴水があり、中央にはウサギの石像が飾られている。
たしかこの国の守護獣をかたどった像なんだっけか? 王城にもいくつか石像が飾られていた気がする。
「――『新鮮野菜マルシェ・ド・ソレイユ』。あった、この店だ」
看板に書かれた文字を確認し、店内へと向かう。
おぉ、すごい。中は木張りの内装で、お洒落な雰囲気になっていた。
「いらっしゃいませー!」
「へぇ、いろんな野菜が売っているな」
「はい! 近隣の農家さんが朝に収穫した野菜なので、とっても新鮮ですよ!」
店番は小さな女の子の店員一人だった。頭に葉っぱのついた可愛らしい帽子を被っていて、なんだかタヌキみたいな子だ。
「えっと、畑に植える種が欲しいんですが……」
「あー、はいはい! それならこちらの棚になります!」
おぉ、種も豊富にあるじゃないか。
木製の棚に、種がそれぞれの野菜ごとにガラス瓶の中へ小分けされて置いてある。
聞けば、お客さんの要望に合わせて苗も取り寄せているそうだ。
たしかに他の人が「野菜と言えばこの店」とオススメするだけはある。さっそく店員さんに、プルア村でも育てられそうな品を教えてもらったのだが……。
「どうしよう、思ったより多すぎて迷う」
トマトにナス、ジャガイモや豆。麦やら果物などなど。
意外にもこの辺りではどんな作物も育てられると聞いて、どれにすべきか選べなくなってしまった。
「うーん。こうして現物を前にすると、どれも育ててみたくなるな……」
ここへ来るまではしっかり計画を練って育てる――なんて偉そうなことを言ってしまったが。美味しそうな野菜を実際に見ていると、元々何かを育てるのが好きな俺の本能が疼いてしまった。
せっかく自分の領地を貰って、自分の好きなように開拓できるわけだし。住民の少ない今のうちに、色々と経験を積んでおいても良いかもしれない。
「じゃあ全部植えるー?」
ピィは俺の背中をよじ登ると、肩車の恰好になりながらそう言った。もう買い物に飽きてしまったらしい。
「そうだな、それもありかも……あ」
しかしそこで俺は一つの問題に気付く。
「えっと、でも金額が足りるかな」
どれが何の種か、そしてその値段を聞いていたのだが、うっかりメモを取り忘れてしまった。
もう一度聞こうにも、唯一の店員さんは他の客と話し込んでいる。どうやら商人相手に大口の取引きをしようと、熱い交渉を始めたようだ。時間が掛かりそうだが、なんだか邪魔するのも悪いな。
「仕方ない、もう一度値段を聞こう。なぁピィ、悪いがもう少しだけ待てるか?」
「右の瓶から、ピリ辛トマトがひと
「――えっ?」
暇そうにボーっとしていたはずのピィが、突然機械のように商品の情報をスラスラと喋り始めた。
「……こっちが若手農家のサーシャさんが開発した、新種の七色ベリーの苗木で1500マニ。ここまで合わせて4万3000マニ」
「あ、あのピィさん?」
「追加で虫が寄ってくるハニー
全てをやり切った、というように「むふー」と脱力するピィ。
キリっとした表情からいつもの脱力顔で、俺の肩に頭を預け始めた。
「まさか、さっきの説明を全部覚えているのか?」
「余裕なのー」
マジか。
普段は昨晩何を食べたのかさえ覚えていなさそうな、トリ頭のピィが!?
「フシがピィが買い物に適任って言っていたのは、こういうことだったのか……」
「買い物上手なのー」
「ピィ凄い! そんな特技があるとは知らなかったぞ!」
俺も計算が苦手ってワケじゃないが、魔王時代は事務仕事に苦労させられていたのだ。四天王も風のブロウ以外は脳筋ばかりで、足し算すらも怪しい奴らだったからな。
だがピィがいれば……。
「よし、ピィは我がプアル領の経理係に任命だ。数字が絡む仕事はお前が適任だ!」
「えー、頭使うのきらーい」
「さっき、自分の欲しい苗木を最後に追加したろ。引き受けないなら買わないぞ」
しかも一番高いやつだし……。
ちゃっかりしているところも、有能さの証なのかもしれないけどさ。
「き、気のせいなのー」
いや、絶対ワザとだろ……。
――それから俺たちは店員さんに再度声をかけた後、全ての買い物を終えることが出来た。
買った苗木は木箱に積み込み、俺とピィはそのままプルア村へと転移した。
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