第11話 魔王様、討伐完了です


 地面に突き刺した勇者の剣を介して、俺の莫大な魔力が地中を一直線にはしり抜ける。


 狙いはケルベロウシを喰わんとしている、その魔物。


 ――ゴオオオオッ!!


 魔力と魔物が地中で衝突した瞬間。

 走っていたケルベロウシの群れが左右に割れ、そこに巨大な紫色のワームが地上へ飛び出してきた。



「やはりミミズ系の魔物か! しかもあの色は、上位種のベノムワーム!」


 地中を掘り進むのに特化した、大型のミミズ型魔物だ。全長は五階建てビルくらいの大きさがある。


 その上とても攻撃的で、刺激を与えるとすぐに追いかけてくる癖がある。しかもその巨大な口から猛毒までまき散らすっていうんだから、余計にタチが悪い。



「ま、今回はお互いに運が悪かったってことで」


 コイツには何の恨みもないが、トドメを刺させてもらおう。


 俺は両手剣を地面から引き抜き、ベノムワームへと走り出す。さらに脚力を強化し、地上でもがいているベノムワームの頭上へと飛翔した。


「――じゃあな、ミミズ野郎」


 えーっと、勇者が使っていた必殺技があったよな。派手な奴で暗黒ジェネシス……なんだっけ? ……いいや、そのままいったれ!


 剣から高エネルギーの光が放たれ、奴の体をスッパリと両断した。


 ――グゥアアアアッ!


 体を真っ二つにされたベノムワームは、断末魔の叫びを上げながら絶命する。大きな地響きとともに横倒しになった巨体は、もう二度と動くことは無かった。



「ふぅー……これでよしっと」


 俺は額を流れる汗を拭うと、大きく息を吐いた。魔王時代の体だったら、汗なんて掻かなかったんだがなぁ。


「……みんな、無事だったか?」


 戦闘を終えた村に帰ると、獣人三人娘は怯えた様子で頷いた。



「凄かったです……」

「ん、あぁ。すまん姫様。驚かせちまったか」


 安全な王城でお姫様をやっていたリディカ姫には、血生臭い戦闘はチョイと刺激が強かったかもしれない。


 だけどこの辺境で暮らすのなら、少しずつでいいから慣れてもらわなきゃだな――。


「物語に出てくる英雄そのものでした! しゅばっ、どーん! ずばばばっって!」

「ずばばば、ねぇ。あはは、そこまで派手だったかな」

「とにかく! カッコ良かったです勇者様!」


 すっかり興奮したリディカ姫は両手で拳を握り締めながら、顔を紅潮させていた。この様子なら、心配は杞憂だったみたいだ。



「しかし、ベノムワームか。川が汚染されていたのも、コイツが原因だったのかもな」


 通った穴のどれかが川と繋がっていたのか、大量の水が流れ込んできた。それもベノムワームの体液と同じ紫色だ。


 毒々しい色の水をしゃがんで眺めていたリディカ姫が、頭だけこちらを振り返った。



「国内にある河川の半分は、ワームたちが作ったと言われているんですよ。それぐらい土地に影響を及ぼす魔物なんだとか」

「ほんっとに厄介な魔物だな……」


 なにも川だけじゃない。

 通った後は何もかもが掘り起こされ、畑や森はグチャグチャになってしまう。人族のあいだでは、災害級の魔物として恐れられているらしい。


 本来は人里離れた場所に生息するため、遭遇することは少ないらしいが……。



「あのまま放置していたら、この土地がメチャクチャにされるところだったな……」


 これからこの村で暮らしていくんだ。

 毒の水に囲まれたらたまったもんじゃない。


「フシたちも飲み水が無くて、大変だったのニャ」

「井戸も数日前から枯れていたのです!」

「喉からからー」


 獣人三人娘たちも水不足に困っていたのか、みんな揃ってしょんぼりと肩を落としている。


「では毒の原因が居なくなったことですし、さっそく川を綺麗にしましょうか」


 そう言うとリディカ姫は立ち上がり、小さな手を天に向かってかざした。


「姫様? いったい何をするつもりだ?」

「――浄化です」


 次の瞬間――彼女の頭上に、巨大な水球が出現した。

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