第10話 魔王様、出陣です


「あれは……ケルベロウシの群れ?」


 魔法で空中に浮かんだ俺の視界に、森から姿を現した数十匹の魔物の姿が映る。3つ頭が特徴の牛型魔物だ。その大群が巨大な土煙を撒き上げながら、真っすぐにこちらへ向かってきていた。


 敵の確認を済ませてスーッと地上に戻ると、心配そうな顔のリディカ姫が出迎えた。



「どうでした? まさかこの村を襲った魔物じゃ……」

「いや、アレは人を襲わない温厚な性格をしていたはず」


 あの様子は襲いに来たというよりも、むしろ何かから逃げているといった雰囲気だった。


 しかし相当な数だ。

 まだ数キロメートルは距離があったはずなのに、まるで地震でも起きたかのような縦揺れが俺たちを襲う。



「ストラ兄、どうするニャ!?」

「うーん。逃げている理由が何であれ、こっちに来られると困るよな」


 魔物は魔物だ。止まってくれと言って聞くような奴らじゃない。

 この村はただでさえ廃村になりかけている状態だってのに、アイツらに突撃されたら完全に更地にされちまう。ケルベロウシには悪いが、討伐させてもらおうか。



「ストラゼス様……」

「大丈夫だ。数は多くとも、強さはそこまでじゃない」


 魔法の収納バッグから一本の両手剣を取り出し、ケルベロウシの大群へ歩いていく。


「しっかし、こんな脂肪だらけの体でよく魔王に挑んだよな勇者は……」


 身体強化の魔法はカロリー消費が激しいから、そのために無理やり溜め込んだんだんだろうけど。いくら勝つためだからって、無茶し過ぎだっての。



「この辺りで良いか。村にはこっそり魔法で防御結界を貼っておけば、万が一抜けられても大丈夫なはず」


 村の外周にあった壊れた柵の前に立ち、迎撃の準備を整えた。


 ケルベロウシの足は速く、すでに1kmほどにまで近付いてきている。魔法で視力を強化した瞳で敵影を確認していると、あることに気が付いた。



「なんだアレ。ケルベロウシの後ろに、何かがいるな」


 この距離まで近付くと、敵の姿が直接見えずとも魔力で感知することができる。


 正確に言えば小さな魔力までは判別できないのだが、今回は違う。ハッキリと分かるほどの巨大な魔力を持った魔物が、ケルベロウシの後方にいたのだ。



「でけぇな。なんだ? 地上じゃない。……敵は地中に居るのか!?」


 地中から出てきた魔物がケルベロウシを餌にしている、のか?


 ともかくコイツらが逃げてるってことは、それほどの相手だってことだ。俺が予想している魔物の通りなら、さっさと倒さないと面倒なことになる。

 

 ……ダイエットがてらに少し遊んでやろうと思ってたけど、やめだ。本気でいこう。



「みんな、もっと後ろに下がれ! 今からデカい魔法を使う!」


 後方にいるリディカたちに向かってそう叫んだあと、俺は両手で大剣を持ち上げ正面に構えた。


 そしてそのまま上段に構えて振りかぶり――全力で振り下ろした。


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