【当断不断】と言われたくない~春申君は即断即決します~

信仙夜祭

第1話

「なに? 頃襄王が病に倒れたと?」


 木簡を受け取って驚いてしまった。


『やべえよ。このままじゃ、他の太子が即位しちゃうじゃん。太子完さま以外が即位したら、俺終わりじゃん』


 クラクラしてしまった。

 秦国の楚国への侵攻を防ぐために、秦の昭襄王をだましたんだけど、人質として太子完を要求して来た。

 そんで、もう10年だ。

 ここで、他の太子が即位したら、俺は10年間なにもしていないことになる。


「どうすっかな~。あの戦神の王様(昭襄王)は、怖いんだよな~。秦の宰相の范雎に頼んでみっかな~」


黄歇こうあつ(春申君)どうしたの?」


 太子完が来た。


「これは、太子さま……。こちらを」


「……父が倒れたの? どうしたらいい?」


「帰国なされるのが一番かと」


「そんじゃ準備しとくね」


 アホい。人質なんだ。楚国に帰れるわけないだろうに。

 こいつを国王にしないといけないんだよな。楚国は、終わりかな~。

 その日は、言い訳を考えるために夜遅くまで考えた。そして、そのまま眠ってしまったようだ。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「戦国策……。史記……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。

 まだ、朝日が昇った時間なので、静かだな。


「俺……、春申君しゅんしんくんなんだよな。ネタで、【当断不断、反受其乱】……『決断をしなければならないときに決断を下せないと、かえって災いを招くことになる』て呼ばれて、司馬遷に散々にコケにされる。ヤバくね?」


 このまま行くと、秦に天下統一されてしまう。

 いやそれ以前に、俺は李園に殺されてしまう。

 いやいや、それ以前に、函谷関の戦いで負けると、王に疎まれてしまい、権力を奪われるじゃん。


 戦国四君に名を連ねるけど、俺だけ評価酷いんだよね……。


「朝早いね。黄歇」


「これは、太子さま」


 一礼する。


「何時、出発するとばい?」


「……秦王に伺いを立ててまいります」





「……っというわけで、太子完さまを帰国させて頂きたく」


「認めっと思ってんの? 人質の意味知っている? 処すよ?」


 さすが、戦神……。怖いよ~。

 だけど、俺も引けない。


「太子さまが、即位されたならば、秦国に色々と融通します。例えば……」


「う~ん。信用できないな~」――ホジホジ


 俺は、史実とは異なり、正直に話すことにした。信用って大事だよね。

 秦の昭襄王は、利害で動く人だ。俺の話を聞いて秦楚同盟を組み、今は趙国を攻めている。

 秦国が、楚国を攻め出したら終わりだ。

 楚国には、人材がいない。というか、小国を吸収し続けたので、各地で反乱が起きてしまう。

 楚国には、国都と呼べる都がないんだ。大きな反乱が起きたら、王族が皆殺しにあってしまう。


 ここで、秦の宰相の范雎が出て来た。


「いいんじゃないですか? 王同士が顔見知りになれば、和平も長く続けられるだろうし」


 君、言っていることと、やっていることが違うよね?

 韓国と魏国を属国にして、趙国を滅亡させようとしてんだし。天下統一狙ってるよね?


「そんじゃ、人質交換で許してあげる」


 お……、やったかも?

 つうか、歴史変わってんじゃん。史記は、間違ってる?


 春信君は、ここで太子完を黙って帰して、自分は罪に問われるけど、范雎のとりなしで無罪になるんだよな。危ない橋を渡らなくても、結局同じ?

 この范雎も、白起将軍と仲悪くて、秦国の絶好の機会を逃しているし。


 歴史を変えられるのであれば、まだ、間に合うかな?

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