みんな違って、みんないい(はず)

 おひさしぶりです。

 11月のあたまに、講演をすることになりました。SNSでお知らせしていたのですが、参加してくださるみなさん、ありがとうございます。当日楽しみにしています。

 さて、なにを話すか、ということですが、主催から提案されたのは「キャラクター」についてです。

 この創作論(って言っていいのか?)にも書いておこうかなと思います。当日はもう少し突っ込んだことができるかな、と思っています。


 類型的な人物像は、読者を安心させます。わかりやすーいヤンキーとか、わかりやすーく単純なチー牛(いまも言うのでしょうか?)とかね。

 しかし、ただのヤンキー、チー牛などなど「いかにも」な人物ばかりが登場して面白くなるでしょうか。

 脇役の脇役、雑魚ならば、そのくらいわかりやすい方がいいかもしれませんが、物語の主となる人物は、もう少し付け加えた方がいいのではないでしょうか。


 昔少女漫画にありがち、とよく小馬鹿にされてきた、「クラスではみんなに嫌われているヤンキーなんだけど、雨の日に捨て猫を拾ってやっていたのを見て、キュンとしてしまった」みたいなギャップを利用するのもあるでしょう。

 いや、わざわざそんな古典的な手を使わなくても、人物の複雑な内面は表現することができます。

 まあ、捨て猫拾うのが複雑なのかといったら、そんなこともないだろ、とは思いますし、なんならそれすらもツンデレ的類型に収まってしまう。大袈裟な表現と言えるでしょう。


『遅番にやらせとけ』という小説を書いたとき、「こんなにやる気のないお仕事小説は初めて読んだ」という半ば呆れられているらしい感想をいくつかいただきました。

 それを読んで、「いやいや、やる気のないお仕事小説だってあるだろ」と反発しつつも、にやりとしました。

 あらすじは、本屋の夜シフトで働く男子大学生たちと、その時間のボス的存在の三十代の謎の男が、万引きだったり推しの写真集を売ろうとしたり、棚卸しで大騒ぎしたりする話です。

 横道にそれますが、お仕事小説とは、その仕事をしていない人から「こういう仕事もあるのか」という興味を持たせつつ、「自分の仕事も似たようなものだな」と自分の仕事と似た部分(迷惑なお客、うるさい上司など)に共感を持ってもらうことが大事です。

 だいたいが頑張り屋さんが主人公です。本屋を舞台にした小説はほぼそうです。

 それでは面白くないな、と僕は思いました。「苦労が絶えないけれど、好きな仕事を一生懸命頑張る主人公たち」は、どこか類型的に思えたのです。

 むくわれない仕事に腐っているやつだっているだろう。したくない仕事を金稼ぐためにするやつだっているだろう。

「漫画やアニメ・ゲームは好きだけど、活字は読まない」

 そんな学生、大人だってわんさかいます。そんな彼らが、「なぜ本屋の仕事をしているのか?」ということをテーマにしたら面白いんじゃないか、と最初思いました。

 大学生たちはある意味で類型的です。スポーツが得意なわけでない、ちょっと気弱な男の子たち。ひとくくりに「やる気ないバイト学生」とできてしまう。

 道で石を投げたら当たりそうなくらいにたくさんいる。でも、彼らは一人一人、こだわりや考えが違う。

 ある男の子は社会に出たくないので大学院に進むつもり、漫画はたくさん買う。ある男の子はアイドルの推し活で留年している。そして推しのために本屋以外でもバイトをしている。ある男の子はゲームの専門学校に通っていて、自分以外はみんなバカだと思っている。自分はなんでもできると勘違いしている。ある男の子は「死ぬ」ってどういうことだろうと考えていて、超常現象やスピリチュアルに興味を持っている。初めての一人暮らしでタガが外れていて、学校に全く行っていない。

 一見「同じように」見えてしまう人物にも、さまざまな趣味や個性があります。個性的なキャラクターができないのならば、同じような人物を配置して、それぞれに別の趣味や性格をつけてみる。

 学校のクラスでは、仲のよかったり、趣味の合う友人たちでつるみますが、同じ漫画やスポーツが好きでも、やはり人は捉え方が違うはずです。


 要素を際立たせるために、似た境遇の人物を配置して、違った個性や好き嫌いを配置してみてはいかがでしょうか。


 あなたの「本屋の店員」のイメージをまず思い浮かべてください。

 ・本が好きそう

 ・いつも疲れてる

 ・尋ねたらなんでも答えてくれる

 ・優しい


 そこから逆だったり外れていたりの要素を加えてみてください。個性的なキャラクターが浮かび上がります。


 わざわざ雨のシーンを作って、猫を拾わなくても、違った個性のぶつかり合いがあれば、人物に深みが生まれるはずです。





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