ジレンマの先にあるスタートライン
@antedeluvian
ジレンマの先にあるスタートライン
晴れ渡る明治神宮野球場に涙と共に響かせたキャプテン・梅澤美波さんの言葉が、彼女たちを、そして、彼女たちを追いかけてきた人々の心を打った。
「私たちが乃木坂46です」
なぜたったこれだけの短い言葉が胸の奥にまで突き刺さったのだろうか?
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「乃木坂46 真夏の全国ツアー2023」の開催が発表されたのは、齋藤飛鳥卒業コンサートの直前、2023年5月8日のことだった。その発表の場には、すでに1・2期生の姿はなかった。そこから彼女たちの今年の夏の決意は始まっていたのだと思う。
人は誰しもイメージというものに縛られている。
大勢の人々の頭の中にあるそれは、誰にもコントロールできないものだ。そのイメージというものは、人を生かしもするし殺しもする。だから、乃木坂46のメンバーの中にも、自分自身のイメージに苦しめられてきた人たちがいる。
メンバーのほとんどのイメージは乃木坂46に加入した時の時間で形成される。メンバー自身も、お互いの年齢の感覚が加入当時で止まっていると話しており、人生が180度切り替わったその瞬間は本人たちにとっても、その時に時間がフリーズしたような印象があるのだろう。
12~14歳で加入すれば、子どもだったというイメージが先行していく。テレビの拡散力は、やはりインターネットよりも未だに強く、相当広く根強く人々の記憶に刻まれていくものだ。来年の2月に20歳になる岩本蓮加さんにも、未だに子どもだというイメージや子どもを相手にするような言葉が投げかけられる。
人がイメージに縛られてしまうのは仕方のないことなのだ。そして、それを打ち破るのは並大抵のことではない。
今年の夏の彼女たちの決意とは、「乃木坂46というイメージの刷新」だった。それは新しいスタートラインにつくための覚悟でもあり、エネルギーの要ることだった。そこには、大きなジレンマがつきまとう。
「乃木坂46です」と自己紹介するということは、乃木坂46の看板を掲げるということだ。その乃木坂46の看板には、未だに卒業していった1期生の姿が深く刻まれている。そのことを、見る側だけでなく彼女たち自身も強く感じていた。
梅澤美波さんは、白石麻衣さんに憧れて乃木坂46のオーディション受ける夢を抱いた。同じように、賀喜遥香さんは山下美月さんに、井上和さんは遠藤さくらさんに夢を見た。先輩たちに憧れて乃木坂46にやって来たメンバーの頭の中にも、乃木坂46とはなんなのかというイメージがある。それが目指すべき場所であり、原動力でもある。
先輩を尊敬すればするほど、自分の不甲斐なさに直面する。それが既存のイメージをより固定させてしまう。そんな中で、先輩たちが乃木坂46を巣立っていくのを見るのは、とてつもない不安感と危機感を抱く出来事だ。だから、遠藤さくらさんは齋藤飛鳥さんと一緒に辞めてしまおうかと考えていた。
「乃木坂46です」と自己紹介をする度に、自分がそう名乗る資格を持っているのかという自問自答が彼女たちに降りかかる。憧れていた場所を見ていた時と視線の方向は正反対だ。視線が180度変わっただけなのに、それが意味するものは計り知れないほどに大きい。それでもいつかは必ずやって来るのだ。「私が乃木坂46だ」と言わなければならない時が。
いいきっかけだったのだと思う。乃木坂46に入って初めて少女は乃木坂46になる。後輩ができて、先輩は初めて先輩になる。後輩もまた先輩がいなければ後輩になることはできない。別の道に行く者がいなければ、乃木坂46の先頭を走る者は現れない。そうやって、営みを繋いでいくのは、限りある命を持った人間の本質でもある。
「私たちが乃木坂46です」という宣言。それは、彼女たちがそう名乗る覚悟を明示した瞬間でもある。3期生にとっては、7年をかけて辿り着いた言葉だ。ようやくスタートすることができる。
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5期生が加入した時、率直に言えば、乃木坂46はずいぶんと槍玉に挙げられてボロボロになりかけていた。その象徴ともいえる「Actually...」という表題曲。センターに立つのは、中西アルノさんだ。
あの曲が辿って来た軌跡を見れば、乃木坂46がどれほど強いのかを知ることができる。この1年で、おそらく多くの人がこの曲のイメージを刷新してきただろう。曲に対する会場の反応は見る見るうちに変わっていった。そうさせたのは、紛れもなく中西アルノさん本人の力だ。それを支えたのは、5期生の仲間たち、先輩たちであり、それに呼応したファンたちだった。乃木坂46とそのファンはイメージを打ち破ることができると証明した。神宮の夜空に突き抜けた中西アルノさんの声は、その象徴だ。
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おひとりさま
「ひとり」を敬って丁寧にいう言葉。接客業者が一人客を指していうことから、「ひとりで楽しむ人」「精神的に自立しており、ひとりで行動できる人」などと多くの意味で使われる。
ひとりでいることの素晴らしさは、多くの人と共に過ごして初めて分かるものだ。そして、ひとりでいることの寂しさも、多くの人がいなければ感じことはできない。だからこそ、誰か頼るべき人をより大切に思うことができる。
2014年に生駒里奈さんがAKB総選挙に参入した時、メンバーたちが自発的にPR活動を行った。生駒さんはAKB48に関わる練習なんかを乃木坂46のメンバーの前でできないと思っていたようだったが、そんな彼女をメンバーたちはずっと支えていた。グループを引っ張って来た彼女のために何かをしたい、と。
2023年の明治神宮野球場のステージ、言葉を綴るメンバーたちはお互いを思って涙をしていた。そばにいる誰かを支え合うというその姿は、いつまでも変わらなかった。
紛れもなく、乃木坂46だった。
written by antedeluvian
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