第8話 噴水公園で待ち合わせ
俺は堀田岳男30歳、独身。穴を掘ること十五年、トンネル掘りが仕事だ。今は休日にトレジャーハンター(メアリーアンちゃん)の手伝いをしている。
昨日は人生初のお宝を掘り出して気分は高揚している。今日は何が見つかるのだろうか?
昨日の重労働のせいか朝は寝坊してしまったらしい。
(ヤバイ、遅刻だ!)
俺は朝食も取らずに急いで服を着替え家を飛び出した。いつも朝食なんて食べてないけどね。
待ち合わせ場所の噴水公園の噴水の前に急ぐ。
公園の中央に小さな池と噴水があるので噴水公園と呼ばれているその公園は俺の住むコリント市のほぼ中央に有るそこそこ有名な大きめの公園だ。
カップルが待ち合わせに良く使うらしい俺にとっては近寄りがたい公園だ。
カップルを見たら目が潰れる! 違う。300ポイントの精神的ダメージを負う。
普段ならそういう理由でオッチャンには近づけない場所であるが、今日は回復効果250ポイントのメアリーアンちゃんとの待ち合わせなので公園内に入ることができるという訳だ。
だが注意は必要だ。
できるだけカップルからは目を背けて受けるダメージは小さくしなければならない。俺はダッシュで噴水の池に駆けていった。
遠くから見ると池の前には何人かの人影、待ち合わせだろう。
その中にワンコと遊んでいる女の子の姿を発見。
金髪ロングのサラサラヘアー、吸い込まれそうな紺碧の瞳にスラリと伸びる長い足、メアリーアンちゃんとここ掘れワンワン犬のプリンちゃんに違いない。
「おーい! 遅れてすまん!」
俺はメアリーアンちゃんに遠くから声をかけた。そして近寄る。
「大丈夫ですよ。それほど遅れていませんわ」
「ワン!」
「それで、これからどうするんだ?」
オッチャンこの公園で長く過ごすのは厳しい。
胸のカラータイマーが三分を知らせて点滅を始めてしまう……気分だ。
「今日はプリンちゃんとほうぼう歩いて宝を探します。タケオさんはついて来てください」
メアリーアンちゃんは笑顔でそう言った。
そしてプリンちゃんを先頭に宝探し(犬の散歩?)が始まった。
俺はメアリーアンちゃんの後をついていく。
「今日は職場には行かないから剣を出してあげよう、オッチャンが装備しておくよ」
周りに人が少なくなって来たので俺はメアリーアンちゃんに剣を出してあげることを提案した。
「そうですね。明日から暫く出してあげられませんものね」
メアリーアンちゃんはオッチャンの意見に賛成してインテリジェントソードをマジックバッグから出してあげた。
オッチャンが剣を腰に装備する。
「ありがとうよ!」
インテリジェントソードが言った。
「悪いが明日から仕事だ、今日だけしか出しといてやれんよ」
「そうか、わかった。仕方がないさ」
わりと物分かりの良いインテリジェントソードだ。
俺達はプリンちゃんに連れられてトコトコ歩いて行く。
そう簡単に宝なんて埋まっているわけがないのだからプリンちゃんがここ掘れワンワンしなくても仕方がない。
十時頃から歩き続けてもう一時近くになっていた。
「タケオさん、そろそろお昼にしませんか?」
メアリーアンちゃんが俺を見た。
「はい! ぜひぜひ!」
俺はメアリーアンちゃんの料理には期待している。
たとえそれがオニギリでもきっと美味しいに違いない。
三時間歩き続けた俺達は、街を離れて小高い丘の上に来ていた。周りには草原が広がっており遠くには林も見える。
春の日差しが暖かく、時折り吹くそよ風が気持ち良い。
これってまるでピクニック?
彼女いない歴=年齢のオッチャンには未体験ゾーンという奴や。
「日陰があると良いんですけどね」
メアリーアンちゃんがそう言うが遠くの森まで木が生えていないので日陰はない。
「ないから仕方ないね」と俺は言った。
「そうですね。ではその辺にシートでも引きましょうか?」
そう言いながらマジックバッグから薄いシートを取り出すメアリーアン。
俺はそれを受け取ると平らな地面に敷くのだった。
メアリーアンはマジックバッグの中からさらにバスケットを取り出す。
これはお弁当という奴や。
「ハムサンドとたまごサンドしかないですけれど……」
恥ずかしそうにメアリーアンちゃんがバスケットを開ける。
「いやいや、十分ですよ。朝から作るの大変だったでしょう? 遠慮なくいただきまーす」
俺はたまごサンドに手を伸ばした。
たまごサンドを頬張る。
細かく切り刻んだゆで卵をマヨネーズと混ぜた物が挟んであるタイプのたまごサンドだ。マヨネーズは自家製だ。
「うめ〜!」
(オッチャン、マヨネーズ食べるの初めてです。)
メアリーアンちゃんは、お酢と黄身とお塩と油(植物油)を混ぜただけだというけれどなんというバランス! 最高ですね!
こんなに美味しい物は初めてだ! これ何にかけてもいけるんじゃないだろうか?
「こ、こ、こ、これ作って売ったらバカ売れしますやん!」
俺が叫ぶとメアリーアンちゃんが笑って言った。
「卵は痛みやすいから……マジックバッグの中なら味は変わりませんけど、そうでないと痛みやすいし味も変わってしまうのでその日のうちには食べないとダメだと思いますよ?」
なるほどこれを売って一儲けというわけには行かないようだ。
(まあそんなことはどうでも良いけれどオッチャンはサンドイッチをたらふくいただきました。ご馳走様!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます