戦後物語

Air

第1話

 新規歴0023年。長かった戦争もようやく終わりを遂げた。第三部隊で、雑兵として繰り出されていた僕は無事に生き延びる事が出来た。もちろん、仲間は多く死に、目の前で市民が犠牲となった姿を目に焼き尽くす事にもなった。

 今現在僕は、フィナンス諸島の南部にいる。アジアの小さな島に居るわけだ。僕たちは、まず北へ行かなければならない。つまり、ここまで来た道を頼りに進んでいく他ないのだ。

 生き残った第三部隊は、ボクと、荒木さんと、國重さんだ。荒木さんは僕より5つ上で、國重さんは僕の2倍の歳となる大先輩な方だ。二人とも、すごく優しくて誰よりも仲間を想っていた。つまり、言葉では表現出来ないような絆が僕たちの間には生まれて来たのだった。


「国重さん、僕くん。取り敢えず、生き残った私たちで北の果てまで目指しましょう」


「待ってくれ!!少し......時間をくれないか......。」


 荒木さんはそう言うと、近場の幾つもの死体のポケットを漁っていた。


「何しているんです?」


「死んでも俺たちの仲間だったものだ。せめて、生き残った俺たちで、遺品だけでも家族に届けてやりたいんだ。」


 荒木さんの日鳴る思いを聞いた。それは正に、仲間を大切にしていた証であった。周りが死んでも気丈万丈に振る舞っていた荒木さんでも、やはりそれは残酷な事であり、不可抗力な事でもあった。


「......そうですね、ご家族の方も大変喜ばれると思われますよ」


「そうだな。勇敢に散っていった仲間。俺たちは、忘れちゃいかんぞ。このみんなの魂を。」


 手の拳に力を入れて柄にもなく、そんな事を言ったのは國重さんだった。國重さんは第三部隊の隊長であったが、隊員には等しく接していた、いわば平等主義者の先駆けである様な人だった。


「はい!!勿論です。」


 そして、僕たちはなんとか北の果てへと、10日間以上掛けて辿り着く事が出来た。北部には空港があり、そこには自国の軍隊の関係者がいた。


「任務、ご苦労であった」


「......」


「まあ、お疲れであろう。今夜はゆっくり休むと良い」


「はい、そうさせていただきます」


「飛行機は、明日の朝10時から出発だ。くれぐれも寝坊しない様に」


 そうして僕は、空港の近くにあったまるで別荘の様な所で一日泊まった。木造建築のその建物は周りの木々を感じされる自然豊かな空間に溶け込んでいた。

 そして、翌日の10時発の飛行機へと乗って約、一年ぶりに自国へとついた。そこからタクシーを呼び、住んでいた故郷へと向かった。


「おお、ボクや!!よく帰ってきたねぇ」


 故郷に帰るや否や真っ先に反応し、ボクの存在に気付いたのは僕のばあちゃんであった。


「うん、ただいま。帰ってきた」


「まあ、前より男前になったんやないの?」


「いえいえ、全然そんな事ないですよ」


 すると、村の人達がボクの声を小耳に挟んだのか。ゾロゾロとボクの元へと寄ってきた。


「あ、ボクじゃん。おかえり!!英雄くん」


 後から聞いた話なのだが、誰よりも命を大切にする事村では生き残った兵士を英雄扱いすると言う、古きならの古だ。


「あの、ボクくん。荒木祐介は一緒じゃないのかい?」


「いえ、荒木さんも國重さんもここに居ますよ」


 僕は小さな白い箱を二つ見せてみる。


「まあ、小さくなって......久しぶりだね。」


「國重!?帰ってきたのか......くそッ、俺も行ければ」


 皆んなは小さな箱を二つ見つめると、笑顔で帰還を喜んだ。ただ、皆は笑っては居たものの、目が泣いていた。心が泣いていた。

 だが、悪いけど天の元へ帰るのは何も二人だけじゃない。僕自身も、もう直ぐ向かわなければ行けない運命である。道中で残された細菌兵器によって身体が蝕まれて行く。

 荒木さんも、國重さんも、幸せだったのだらう。二人とも衰弱する前に手榴弾で自ら天の元へと昇ったのだから。

 しかし、僕は早かった。二人の骨を持って帰る為に生きなければならなかったのである。細菌兵器により左足を失い、爪が全て剥がれ、髪がいくつも抜けていった。

 酷い時には水すらも飲めない程に喉が腫れていたのだ。この地獄の10日間を乗り切り、僕が持って帰った情報は自国が敗戦したと言うことだけだ。

 この命、恐らく持っても1ヶ月程度であろう。

 僕は残り少ない命の中、この文章を残す事を決めた。未来の人たちへの、贈り物としてね。

 戦争は、死ぬだけじゃない。間接的にも人を殺すのだ。


生き人と 話さぬ後悔 無念かな 後の涙の 底は知れずに

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戦後物語 Air @yachirigi

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