常3人称 いつもの3人称

 目の前の砂漠から、砂を巻き上げながらゴーレムが姿を現そうとしている。それをエリーナは遠巻きに見ていた。

 確認すると、風魔法で飛び回っていたカレントが手をあげてみせる。周囲に人はいないようだ。エリーナは知らず微笑んだ。久しぶりに本気が出せる、と。

「全力か? 久しぶりだな」

「ほんとね」

 語りかける魔法剣に答える。本当に、久しぶりだ。ほとんどのダンジョンは迷宮式なので、全力などだせば迷宮が崩壊してしまう。人が巻き込まれるリスクも高い。ここは開放形のダンジョンでしかも、人もいない。

 エリーナは魔法剣に指を這わて魔力をそそぐ。触れた魔法紋が輝き周囲へとひろがると、炎の渦と変わってエリーナを取り巻いた。炎の中にはもう「設計図」が入っている。あとは、エリーナが魔力をそそぐだけだ。

 周囲の熱が、光が、再び自分に取り込まれて魔力へかわる。自分の中で貯められ停滞していた魔力を、思い切りその巡りへと注ぎ込んだ。

「ハァアアアアアッ!」

 裂迫の気合い声も炎の中に飲み込まれ、炎が膨れ上がった。周りからはまるで爆発が起きたように見えたであろう。エリーナには「炎が喜んでいる」のが分かる。散れ散れに遊び回ろうとする炎を、魔力の神経を張り巡らして捕まえる。それでも炎は鎖を食いちぎろうとする。ふつうの炎魔法の使い手は、ここで畏れをなすものだ。強すぎる炎は、術者の中を巡りきれずに溢れだしてはその身を焼きつくす。エリーナの本当の強さは、最高峰の学院で学んだことでも、伝説の魔法剣に選ばれたことでもない。この、類い稀なる魔力量とその胆力であった。

 エリーナは炎を畏れない。それどころか親しみすらあった。その気性は、彼女の中に備わっているものとよく似ていた。(あたしの言うことを!!! 聞けええええ!!!)暴れまわる炎を、力いっぱいの魔力で押さえ込んだ。ようやく炎の群れは、その身に宿る設計図にしたがって形をなし、彼女の中を巡りながら広がってゆく。ふわりと彼女のからだが浮かんだ。収まる位置に収まり、自分自身が魔法の心臓となり頭となるのだ。そしてそこに現れたのは、炎からなる八首の竜であった。


77行、28分

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る