桃色の庭

八蜜

第1話 新学期です。


小さい時からぼーっと空を眺めるのが好きだった。毎日見上げる空は一つとして同じ空ではなく、ずっと流れ続けているから見ていて飽きなかったし、時間も忘れることができた。


「仁太」


名前を呼ばれ振り返る。振り返るとこちらに向かってくる1人の少女。少しムスッとした顔はただをこねる年相応の顔つきで可愛らしかった。


「由ちゃん」


ツインテールの髪が風に揺れ、彼女は乱れる髪の毛を必死に抑える。その姿が愛らしく見つめると彼女はまたムスッと難しい顔をして俺の手を引く。


「もう仁太は私がいないとダメね!早く行かないと先生たちに置いて行かれちゃうわ」


そうだ。あの時は保育園の遠足か何かで遠くに来ていて、いつものように空をぼーっと眺めていたらもうそこには先生達はいなくて立ち尽くしてたらゆいちゃんが来てくれたんだ。


そんな風に昔を思い出し、懐かしんでいるとゴンッと言う音と共に自身の顔に痛みが生じる。


「痛い…」


「だははは!!!ひぃ〜腹いてぇ!はははは!!!」


「そんなに笑わなくても良いじゃん…」


「いや〜今日はいつも以上にぼーっとしてるな〜と思ってよ」


「ん〜春だからかな?暖かいしね」


隣でさっきの状況を思い出し笑いしてるこの男は和栗康二(わぐり こうじ)。俺の小学校からの友達であり、今では親友と呼べるほど仲が良いと思っている。


「そう言えば昨日ちょー可愛い子に声かけられてなかったか?それで今日は心ここに在らずか!」


「うん、元々可愛かったけど。より別嬪になったよね〜」


「?俺会った事あるっけ?うーん待てよ。あの容姿なら覚えてるはずなんだけどなぁ〜分からん…」


「そっか、由ちゃんは幼稚園の時に県外に一回引っ越してるから康ちゃんは知らないよね〜」


「お前…俺といる期間長すぎてもう生まれてからずっと一緒♡みたいな空気出してねぇか?」


「そうかもね〜」と生返事で返し、「なんだよその興味なさげな返事は!」と後ろで騒いでいる康ちゃんを置いて昇降口にある自分専用のロッカーへと急ぐ。


上履きへと履き替え自分のクラス、教室へと向かう。すれ違う同級生たちはまだ制服を着慣れていない、そんな風に感じる。いや、それもそうだろ?何を当たり前のことを…今年から新一年生なのだから。


自分の教室へと入り昨日と同じ席に座る。教室の席は5列あり、30席ある。俺のクラスメイトは30人居るということである。

自分の席は窓際1番端の後ろの席から1つ前の席で何とも曖昧な位置なのだがまあこれはこれでアリだ。

何故なら後ろの席は何かと先生の目に入り、寝ようものなら一瞬でバレてしまう。この曖昧さがちょうど良い。そして俺の後ろの席は康ちゃんである。


「なあ、あの子だろ?お前が昨日話しかけられてた子」


康ちゃんの指さす方には人だかりができ、一人のクラスメイトを囲んで周りが大変愉快だ。


「お、おはよう!」


「由ちゃん、おはよう。相変わらず人気者だね〜」


「まあ、私は可愛いもの!当然よ!」


「うん、由ちゃんは幼稚園の時もだけど今も凄い別嬪になったよね〜」


「か、可愛いとかすぐ言うなし…」テレテレ


そんな二人の微笑ましい様子を後ろの席で眺めていた康二は…


(おっとぉ〜?これはこれは!じんたんにも春が来たってことか!面白くなって来たね〜)

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