⑰ そんなふうに思ってないです…。
彼女、ヨルズは少々甘えたような態度で、周囲を気にして一度見まわし、話を始めた。
『今日の放課後、私とマンツーマン相互レッスンをしませんか? 多くの時間は要しないです。小半時ずつで』
ああ、昨日、私が方言を教えてほしいと言ったからか。いい提案だけど、放課後は部活動もあるし、優先度が高いことでもないかもしれないわね。
『せっかくだけど、まだ方言までは手を出せなくてね。標準スクルド語にも追いついていない状況なの。私がこちらの生活に慣れた頃に、またお願いできるかしら』
『いえ、私の出身地の方言を教えるのではなくて』
『ん?』
『私が提供できるレッスンは“方言概論”です』
『概論?』
『ここスクルド国にはたくさんの方言が存在します。私の地元はそこそこの地方都市なので、別に覚える必要もない方言ですが、そうでないものもあります』
『ああ、領地もすべてが同一価値というわけではないものね』
『政治的に重要な地域の方言はどこで有用になるか分かりませんし、それこそ市民権……いえ、国民権を得ている方言というものだって存在するのですよ!』
なるほど。地方言語論ということ。
『私がその概論を先生にレクチャーして差し上げます。その代わりに、先生付きで次回授業の予習をさせてください』
彼女は真剣な目で私に訴える。
『ずいぶん勉強熱心ね』
『当たり前です! 私は田舎地方のぱっとしない貴族の家の出ですが、このクラスに選ばれて
そうか、外交官育成クラスって、長きに渡る和平が築かれるか、または戦争の時代に戻るかの責任者を育成するのだものね。
『私だけではありません。各々が立身出世の足がかりを模索していますし、今はいかにクラスメイトを出し抜くかが勝負どころです。先生はクラスの男子たちなんて、ただの、可愛い女教師に弱い、下心いっぱいのド助平だとお思いでしょうけど』
ド助平……?
『もちろん私欲のみではなくて……みんな本気で、知識、技能を磨いて国に報いようとしているのです。負けていられません!』
「…………」
まだ15歳だというのに、すごい気迫。その熱意に気圧されてしまった。
それなら尚更ひとりを特別扱いするわけにも、とは思ったけど、実は方言概論にはちょっと興味があったりして。
『じゃあ、今日だけは特別。その気合に私も報いましょう』
『やったぁ! では下校時刻の1時間前に。みんなには内緒のレッスンですから、使用部屋は、本日、私の所属する美術部の活動がないので、美術室の隣倉庫が空いてます』
『分かったわ』
あとで美術室の位置を確認しておこう。
ついに初の学級会の時がやってきた。闘志を滾らせ挑戦者がぶつかり合う、フェアで熱い勝負の種目は──
『命名「いす取りゲーム」だ──!!』
『『『うおおお!』』』
司会者を請け負ったので恥じらいを捨ててみた。
ん、生徒たちがなぜか東西に分かれて待機している。
『文官の息子ども! その高い鼻っ柱へし折ってやるぜ!』
『『『うおおお!』』』
『何を武官勢! 宮廷を牛耳るのは僕たちだって分からせてやる!』
『『『うおおお!』』』
これチーム対抗戦ではないから……個人戦だから……。
女子たちはこの様子を、「本当に男子ってば子どもなんだから」という顔で見ている。アンジュがラスを見る目もたまにこういう感じかな。
『先生! 優勝者に贈られるプライズは!?』
あ、賞品のことを忘れていたわ。今すぐに用意できるもの? ……そうだ。
『じゃあ優勝者には私の、マンツマーン・
さっきヨルズから聞いた意気込みが本当なら、みんなにとって悪くない賞品でしょ?
『『『うおおお!』』』
あら、自分で言っておいてなんだけど、本当にそれでいいの?
せっかくなので序盤のみんなには手をつないでマイムマイムを踊ってもらう。この学級会の目的はあくまで、これからひとつの教室でやっていく同士の親善だ。音楽に合わせていっしょに踊れば誰とでも仲良くなれる、と昔の偉人(
そういえば、ダインスレイヴ様は結局、調査等で忙しく、解決の糸口が見つかるまでは登校どころではないみたい。これに参加してもらえなくて残念……。
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