目撃談

ボウガ

第1話

 Aさんの学生時代の話。


 分け隔てなく接するA、ある霊感のない子男B、自称霊感もちの女の子C。彼女と仲のいい女友達D。普段から不思議な言動から周囲を困惑させているCにBはいつもイライラしているようだった。


 そんな皆で心霊スポットにいったときの事。まったく亡霊など見えないDが、嫌気がさしたのか、ちゃかすような雰囲気で、その心霊スポット、廃墟のホテルの一室の扉を指さした。

「あそこ、なんかゆらゆらしている」

 その時、ぼーっとほかの方を見ていたCも、そちらをみる。

「あ、本当だ」

 Bは、ケッといいながら、空き缶を蹴とばす。が、ふと目をやった瞬間、Bはいった。

「本当だ……子供がいる……なんてこんな時間に」


 Aさんもそちらをみた。と、そのホテルの窓辺、Aさんにも何かちらちらと揺れるシャツのようなものが見えた。


 だがその時、Aさんは見えたままをいったが、Cは“痩せたサラリーマンが見える”といい、Dが“黒服の女が見える”といった。Aさんは困惑したのだが、その窓がゆらり、と揺れた瞬間、Aさんはシャツの中の人―太った中年男性、と目が合ったきがした。その目は真っ黒で、思わずさけびそうになったが、その口が何かを訴えかけるように動いたので、じーっとみてしまった。


 その間も皆が動揺している。

「ねえ、なんかこっちこようとしてない?」

 とD

「本当だ、おりようとしている」

 とC

「こんな、こんなのありえない!」

 とB

 

 なぜか自身ありげにDがCをかばう。

「ほら、Cのこと、信じる気になった?」


 


 Aは相変わらずじっと彼にだけ見える幽霊をみていたが、その瞬間彼はその幽霊が何を言っているのかがわかった。

「ニ・ゲ・ロ」

「うわああああ!!!」

 彼の叫び声に続いてみんな逃げ去った。我先にと、Bの運転してきた車へ急ぐ。その道中、Bは小高い崖のほうになぜかむかっていき、そこからころがりおちた。


 息を整えて、Aが周囲をみて、Bに話しかけようとした。

「B、怖かったな、本当に幽霊がいたんだ、Cは本当に幽霊が見える!!霊感をもってるよ、これにこりて……」

 そうはいったがAの言葉はCをかばうための口実で、冷静さを取り戻し、今見たものを幻覚と整理しようとしていた。AはいわなかったがB以上に幽霊を信じていなかったのだった。


 だがその瞬間、AはBが転がり落ちていく様子をみた、Aが叫んだ。

「まって!!皆!!Bが落ちた!!!」

 その瞬間、幽霊の怖さより、仲間の命の危うさに皆一様に冷静さを取り戻した。そしてBをなんとか助け出して、救急車に連絡。

 Bは崖から引き揚げたとき震えながらこんな事をいっていた。

「あり、えない、ニゲロ、ニゲロ、って、あんな……怖い、声……」

 まるで取りつかれた用に怯えるBにAは少し恐怖を覚えた。


 その心霊スポットは小高い山の上にあり、幸いBは一命をとりとめたが救急車が到着すると、足を骨折している事がわかった。


 暫くしてBが入院する病院にAとC、D皆で見舞いにいったとき。BはCに謝った。

「すまなかった、今まで本当に、お前の事本当はちょっと気になってて、それで」

 と謝ってきた、その場の雰囲気は妙なものになったが、その雰囲気を遮断するように、Cはいつものように場の空気をよまずにいった。

「いや、謝るのは私の方だよ、私はあの時本当は何も見えなかったの」

「え?私はみえたわ」

 とD

「ごめん、私のせいかもしれない、ちゃかして、でも皆がパニックで私もそれにあわせて」

 とC、それと同時にAが驚き、Cに尋ねる。

「じゃあなんで逃げたの?皆、あの男の声をきいて、口元をみたんじゃ?」

 BとDが同時にいった。

「なんでって、あの幽霊がとびおりたからだよ、それがAの方に向かって、Aに重なると、Aが叫んだの“ニゲロ!!!”って、それでみんな悲鳴をあげて」

Cもいった。

「そう、あれはA君のわるふざけかとおもって、それにしてもタイミングがよすぎて私も怖くなって逃げたの」

 Aさんは、ふと思い出した。件の怪我の件について、心霊スポットにいったことより、親にもBの親にも、ひどく自分だけ責められていたことを。

(そうか、皆別々の幽霊をみたけど、そこの部分だけは一致していたんだ、俺が叫んで、Bが怖がって逃げて怪我をした、っていう事になっているのか)

 そういえば思い当たるふしがあった。警察がくるまでの記憶はほとんどなかったし、なにかひたすら仲間に心配されたり、おびえられたりしていたような気がしたのだ。


 結局件の亡霊の件は、警察に説明するわけにもいかず、それに話の辻褄も合わなかったので、この4人の中だけの話になったのだ。それに警察の話によるとあそこは自殺者の噂が多数あるが、いままでそうした事件はひとつもなかったという。


 BがCの事を気になっていた件だが、Cは不思議な言動ばかりいっていたが、実はAさんも気になっており、誰もがその容姿とファッションセンスに憧れるマドンナだった。それが作りだした幻影なのか、はたまた、彼女に本当に力があったのか、それは今でもわからない。ただAさんは、Cと結婚した今でもあの話を奇妙な体験として語っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目撃談 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る