第39話 アルのお土産 13

「つっ……、手が痛い……」


「おい、ジュリアン! 大丈夫か!?」


 テーブルに突っ伏したジュリアンさん。 

 右手を、黒い煙がずるずると這っている。

 

 説明はあとにして、先に邪気を吸い取らなきゃ!


「ジュリアンさん、大丈夫だから!」


 私はそれだけ言うと、ジュリアンんさんの右手にむかって、手のひらを近づけた。

 そして、黒い煙を吸い取るように、動かし始める。


 私の様子を見て、アルは部屋中の花を私のそばに運びはじめた。

 あ、私が花から力をもらえるって言ったことを覚えててくれたんだね。


「うっ、え……ライラちゃん? 一体、何を? アルも何をしてる……?」

 

 苦しそうな顔でつぶやくジュリアンさん。


「ジュリアンさん、後で説明します。だから、私に任せて」


「大丈夫だ、ジュリアン。ライラに任せろ。俺も救われたことがある」

と、アルも花を運びながら、ジュリアンさんに声をかけた。


「救われたって、……なに? ライラちゃんのこと、隠しすぎだろ……。後で聞かせてもらうから……っ」

 

 ジュリアンさんの顔色が悪い。急がないと!

 

 私は集中して、黒い煙を吸い取り始めた。

 すぐに、手のひらから種が生まれた。


 しまいこむ余裕はないから、テーブルに置く。

 ジュリアンさんが、その種を見ながら、苦しそうにつぶやいた。


「ライラちゃん……、もしかして、手品……?」


 私が答える前に、アルが言った。


「黙って、ライラに任せろ」


「わかった……。ライラちゃん、悪いけど、よろしく……」


「大丈夫、すぐに、楽になりますからね!」


 私はジュリアンさんを安心させるように声をかけた。


 私は、必死に両手を動かした。

 時折、手のひらから種が生まれる。


 テーブルに置いた種が山盛りになった時、手首から先を残して、邪気は全部吸い取れた。黒い煙の動きも止まっている。


 ジュリアンさんが、ふーっと息をはいた。


「すごく楽になったよ……」


 顔色も戻ってるし、ひとまず良かった。

 でも、手首から先はまだ真っ黒なんだよね。ここもなんとかしないと。

 

 私はジュリアンさんに言った。


「手を触らせてもらいますね」


「え……?」

と、ジュリアンさん。


「は? 触る? おい、待て、ライラ!」


 こっちは、アルの声。

 が、無視して、私はジュリアンさんの真っ黒なところに、自分の手のひらを重ねた。


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