第38話 アルのお土産 12

 ジュリアンさんが話し始めた。


「屋敷内で、それらしき男を見かけた。後ろ姿で、顔は見えなかったが、異国風の衣だった。特徴的なのは肩に鳥をのせていたこと」


「鳥?」


「匂うだろ? すぐに、イザベル嬢にその男のことを聞いたが、誤魔化した」


「で? おまえのことだ。色仕掛けで口を割らせたんだろう?」


「ちょっと、アル! そんな言い方したら、ライラちゃんに軽蔑されるだろ? ライラちゃん、安心して。俺はライラちゃんの兄として、恥ずべきことはしてないからね? ただ、ターゲットを褒めまくり、いい気にさせただけ。そうしたら、しゃべりたくなったみたい」


 ターゲットって……。本当に筆頭公爵家のご子息?


「あの、ジュリアンさんって、小説にでてくる密偵みたいですね」


「うわ、ライラちゃんに褒められた!」


 いや、褒めてない……。そう思った瞬間、アルも同じことを言った。


「褒めてない。それより、あの女、なんて言ったんだ?」


「男は異国の占星術師。数年前から、侯爵が相談をしている。この国に来た時は、侯爵の屋敷に滞在するようだ。今も、1か月前から滞在している。イザベル嬢の口ぶりだと、イザベル嬢自身もその男のことを信頼しているように思えた」


「屋敷に滞在させるほど、侯爵の信用を得ているか……。それなら、侯爵の望みを叶えてきたんだろう。やはり、占星術は表向きだな。ジュリアンの予想通り、呪術者か。そう言えば、侯爵ともめていたロス侯爵が原因不明の病で倒れたのは先月……。調べる必要があるな」


「ああ。俺も気になって、侯爵が邪魔に思うだろう貴族を片っ端から調べた。すると、この数年で、数人、原因不明の病で倒れた者がいる」


 アルは考え込むように黙った。

 私は気になったことを、ジュリアンさんに聞いてみた。


「あの、ジュリアンさん。その呪術者の肩にのっていた鳥。どんな鳥でしたか?」


「あ、やっぱり、気になる? ライラちゃん?」


 私はうなずいた。


 王都と違って、辺境には、いろんな鳥がいる。もちろん庭にもくる。

 邪気から生まれた種を植えているから、私は大丈夫でも、他の生きものに害があったらいけない。そう思って、注意深く観察しているうちに、鳥が好きになっていた。


 異国の鳥についても、図録を取り寄せて、読んだりしている。

 その中で、ふと思い出したのは、羽を呪術に使っていたという異国の鳥。

 今は絶滅しているけれど、似たような鳥がいるとしたら……。

 

 だって、呪術者が肩にのせてまで、常に一緒にいる鳥。気になるよね。


「俺も気になって調べてるけど、何もわからない。俺が見たのは、鳥の後ろ姿。体の大きさは男の頭くらいで、血の色みたいな赤に黒い模様が見えた。見間違いかもしれないけど、その黒い模様が動いているみたいだったんだよね」


 その時だ。ジュリアンさんの右手に絡みついている黒い煙が、ずりずりとうごめき始めた。

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