なきむしドラゴンとせつなちゃん

夏風小春

なきむしドラゴンとせつなちゃん

 むかしむかしあるところに、とっても、とっても泣き虫なドラゴンがいました。名まえはミィ。名まえのとおり、よく、『ミィ、ミィ』となくドラゴンです。ミィのお母さんはニンゲンで、ミィが小さなころになくなってしまったので、ミィはひとりぼっちでした。

 ドラゴンは、やりたいことはなんでもできるとされていました。ときおりニンゲンたちのねがい事をかなえてあげる、かれらにとってはカミサマのようなそんざいです。ニンゲンがねがった内ようによって、どのドラゴンがそれをかなえるのか、役わりが決まっていたのでした。しかし、ドラゴンの血が半分しかつながっていないミィにはできることが少ないのです。そのため、ドラゴンのあいだでは『できそこないだ』となかまはずれにされていました。

 ミィのやることはカンタンです。泣くのです。ミィはドラゴンのおうちがある空高くから泣いて、ニンゲンたちに雨をとどける役わりでした。そんなミィのことをなかまのドラゴンたちはとおまきに見てわらっていました。

 ある日、いつものようにたくさん泣いたときのことです。ミィは泣きつかれてねむっていました。泣きはらしてもどらなくなった目をこすろうとおもったときに覚えたいわかん。あれ?これは、ニンゲンのテ。て。


 あたりを見わたすと、いつものふかふか雲ではない、地面があります。ミィはニンゲンのすがたになって森の中にいたのでした。


 大変だ、どうしよう。ミィはとてもあわてました。こんなこと、はじめてだ。どうすることもできません。グー、とおなかがなりました。ニンゲンのカラダはドラゴンとちがって、おなかが空くのです。こまりはてて、なみだかぽろり。そんな時。


「どうしたの?」


 後ろから声がしました。ふり返るとそこにはなんともかわいらしい女の子が立っていました。おながすいているミィをみて、これあげる、とトウモロコシをくれました。


 女の子は『せつなちゃん』という名まえらしいです。ミィはせつなちゃんが森にいるまでのあいだ、せつなちゃんからいろいろな話をききました。トマトが大好きなこと、森のどうぶつたちがお友だちなこと、このごろは雨がたくさんふっていてたすかっていること、今年はトウモロコシがおいしいこと、お母さんがいないこと。


「せつなね。お母さんがいないから、おばさんにおせわになっているの。おばさんね、とーってもやさしいの。いいこにしてたら、ごはんを食べさせてくれるんだー……」


 せつなちゃんは、しあわせそうです。


 さてと……と、せつなちゃんは立ち上がります。


「じつはね、今日はここにキイチゴをさがしにきたの。そろそろおばさんがかえってくるから、お家にかえらなきゃ」


  またあおうね!と手をふってせつなちゃんとおわかれをしたそのしゅんかん。

 ミィはお空のうえにもどってきていました。すがたも、ニンゲンではありませんでした。


 それからというものの、ミィはねむるたびにニンゲンへとすがたを変え、森にあそびにいきました。ミィはまいにちがたのしくて、たのしくて、しかたがありませんでした。つぎはなにをしてあそぼうかな。ねむるじかんが待ちどおしいな。ほかのドラゴンにいじめられても平気です。おかげでなみだをながすことも、少なくなりました。


 そんなある日。いつものように目をつむり、せつなちゃんに会いに行ったときのことです。きょうのせつなちゃんは、なんだか少し元気がありませんでした。

 ひとしきりあそんだあと、せつなちゃんは言いました。


「あのね、せつなね。もうおわかれなの」


せつなちゃんがいうことによると、最近、雨がふらなくて村のみんながこまっているらしいとのことでした。そこで、古くからの村のきまりとして、ドラゴンにささげるイケニエにせつなちゃんがえらばれたのです。ミィはいままで自分がやってきたことをたいへん後かいしました。ミィが、ミィのせいで、せつなちゃんは。


 いそいで空へとかえります。はやくもどらなくては!ミィはすぐにでも泣かなくてはなりません。しかし、いつものように泣けません。ミィはもう、泣いてばかりの泣き虫ドラゴンではなくなってしまったからです。アイを知り、強くなったのです。



 せつなちゃんは、イケニエにされ、ほかのドラゴンたちに食べられてしまいました。


 『ミィ、ミィ、』


 ミィはなみだをながします。さっきまでなみだが出なかったのに、今はたくさん、とまりません。

 ぽろぽろ。ぽろぽろ。ざあざあざあ。

 なん日も、なん十日も雨はふりつづけます。それは、ミィが泣きつかれ、チカラを使いはたすまでやみませんでした。

 ようやく雨がやんだころ、村はしずみ、大きなみずうみができました。空にはきれいなにじがかかり、そのにじのはしをわたって、ミィとせつなちゃんのタマシイはふたりいっしょに天国へとのぼります。



 ×××年後、大きなみずうみのそばのまちにふたごの赤ちゃんが生まれました。

ふたごは「せつな」と「えみ」と名付けられました。



おしまい

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