第56話 激闘の果てに
――男の体はたちまち液状化し、地中に溶けて無くなってしまった。
(そういえばアイツ、一度も私を馬鹿にしなかったな。私をちゃんとした戦士として扱い、戦いを挑んでいた。手ひどくやられたはずなのに……とても、爽快な気分だ)
しかし死闘を経て得た大金星の代償は重かった。上半身の骨の半分以上が折れて出血しており、六番目の高速移動の負荷もあってか両方の義腕も酷く傷ついている。体力の消耗や魔力の過使用による体温の急激な上昇も相まって、歩行はおろか立ち上がる事すらも絶望的だ。
(……無茶しすぎたなあ、帰りはかなり遅くなりそう。でも、アイツの名前を出したら許してくれるかな。そうなると信じたい)
そう思いながら、私はテーブルの破片に埋もれている王冠を見つめる。その王冠が私の勝利を称える様に思えて、勘違いだとは知りつつもグッときてしまう。
それから私は地面に横になり、目を閉じて体力の回復に専念する。そうし始めてしばらく経ったとき、突然、ドアを開けてソウマさんが中に入ってくる。
「スイ! 城内で大変なことが起きている、今すぐ……」
ソウマさんはボロボロの私を見て、口を抑えて驚く。
「ソウマさん、ここにはギルドの連中ではなく破龍族がいました。どうにもそいつは一族の中で三番目に強いらしく、苦戦を強いられてしまいましてね」
「……お前は頻繁に死にかけすぎだ。動くなよ、液体金属でベッドを作って運んでやるから」
「どちらにしろ動けませんよ。それより待ってください。まだ王冠が――」
「その件についてだが、ダンテ王は王冠が無くなったという記憶の改変を受けていたらしい。詳しいことは移動中に話す。だから一旦、口を閉じて癒やされていてくれ」
「へ? でも確かにあそこには王冠が――」
「……お前なあ、いくら何でも疲れすぎだろ。ただのマグカップが王冠に見えるとかさ」
王冠がある方向に目を向けると、確かにそこにはマグカップしかなかった。錯覚かと思ったが、戦う前から王冠に見えていたことから、恐らくあの男が幻覚魔法をカップに仕込んだのだと結論づける。
ソウマさんが指を鳴らすと、体の下にベッドの形をした金属が現れて私を持ち上げる。ソウマさんの言うとおり、確かにここで寝ていると痛みが和らいでいく感覚がする。
(黙っていると傷の治りが早くなるんだろうな。それじゃあそうした方がよさそうだ)
私は目を閉じ、ベッドに身を委ねる。そんな私に向け、彼は何故自分がここへ来たのか、城の中で何が起っているのか、そこに至るまでの経緯も含めて説明を始める。
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