第14話 藍の墓場(2)

 走り続ける事約半日。突如私達の目の前に、廃村の影が映し出される。


「ソウマさん、あそこがかつて流星街だったものです。藍の墓場はこの街を直線に突っ切った場所にあります。何か酷い物が見えるでしょうが、気にせず進んで下さい」

「お前は大丈夫なのか?」

「……大丈夫です。お構いなく」


 苦しい強がりだが、立ち止まるよりはマシだ。


「んなワケ無いだろ。顔色悪いぞ――」

「いいから行ってソウマ。ここに長居するのが不味い事ぐらい分かるでしょ?」


 ソウマさんは無言で再び前を向く。実際、街中に漂う木の焦げたような臭いは、呼吸をする度に私の精神を苛んでいる。呼吸のペースを遅くしているが、それでも苦しみは止まらないから早く立ち去りたい。


 流星街跡を抜けた私達は、草木生い茂る草原に出た。辺りは既に暗くなっており、街灯も無い故か周りの景色が殆ど見えなくなっている。かろうじて見える彼の背中を追いかけて少しの間走り続けると、ようやく目的地が見えてくる。


「なんだアレ、地面が青く光ってるぞ」

「あそこが藍の墓場です。あの一帯は日光を吸収し、夜に成ると青く光り出すという特性があります。見ての通り光に釣られてやって来た蛍も多く飛び交っているので……まあ、観光地になるのも分かります」

「ソウマ見て、あの青い明かり以外にもう一つ光がある。もしかしてあそこに例の鍛冶屋が居るんじゃないかな」

「だろうな。よし、お前ら馬を下りろ。彼に会いに行くぞ」


 彼の指示通りに馬を降り、私とリュウは橙色の光に向かって走って行くソウマさんを追いかける。光の傍には革製のエプロンをした一人の男がおり、男は金床に置いた何かに対し頻りに金槌を叩き付けている。


 男は私達の存在に気づくと、金槌をエプロンの前ポケットにしまい手を振る。彼の元へたどり着いたソウマさんは、男と固い握手を交わす。


「意外と早かったな。もう半年は待つ覚悟をしてたんだが」

「ああ、俺ももう少し掛ると思ってた。だが幸運にも、お前と別れてから一ヶ月弱でコイツに会うことができたんだ」

「青髪の方か? なんか体つきが華奢過ぎて頼りないなあ」

「まだ発展途上だ、これからどんどん強くしていく予定だ」

「ま、アンタが教育係に居るなら大丈夫だろ」

「スイ、コイツが例の鍛冶屋だ。名前はギド。下の名前は長すぎるから覚えなくて良い」

「よろしくお願いします! スイ・トニックです!」

「いいよ挨拶なんて、武器を渡せば終わる関係だ。それより見ろよみんな。コレこそが手紙で言っていた、世界を変える力を持つ剣だ!」


 男は金床に置いた剣を拾い上げ、天高く掲げる。その剣の刀身は銀色では無く、青色に染まっていた。私はそれを見て――腰を抜かし、尻餅を着いてしまう。


「なっ……!?」


 私にとってあの剣は、とてつもなくおぞましい物に見えている。他の人には普通の青い剣に見えているだろうが、私にはそれが、人肉を固めて作られたソレに見えるのだ。


「おいどうしたんだ、俺の作った剣がそんなに美しいか?」

「ど、どどどどうしたってのはこっちのセリフですよ! そ、そんな気持ち悪い物、一体どうやって作ったんです!」

「藍の墓場に埋まってた鉱石で作った。しかし気持ち悪いってのはどういうことだ――」

「待てギド。お前この墓を掘り起こしたのか?」

「ああ。この場所に埋まっている青い鉱石には持ち主の魔力を増幅させ、魔法詠唱時の魔力消費を軽減する能力があるそうだ。今まではアクセサリーとして使用されてたらしいが、俺はこれが剣にしたら強いんじゃないかと思っ……え、なんでアンタら俯いてんの?」


 その場に流れる空気は重かった。男の発言で、リュウとソウマさんは鉱石の真実を察してしまったんだ。私は立ち上がり、男の目をジッと見据える。


「……気づいてないなら教えてあげますよ。貴方がいま持っているその鉱石はね、私達彗星族の死体なんですよ」

「なんだって!?」

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