第7話 成長→再出発
それから私達は焚き火を囲み、縁を深めるために談笑する。すると、話し始めてすぐ私の全身についた酷い汚れの話題になった。
二人の中で「綺麗になった姿が見たい」という結論が一致すると、ソウマさんは魔法でキャンプの奥にシャワー室を組み上げた。私は一言礼を言ってそこへ向かい、素早く服を脱いで室内に飛び込む。中はすこし狭いけど、全身洗う分には何も問題無い。
温かい水を浴びながら、全身の力を抜いてリラックスする。ふと床を見下ろすと、地面にしたたり落ちる水が茶色く濁っている事に気づく。
知らないうちにこんなに沢山砂を素肌に浴びていたのか、と背筋が凍る思いをした。
次に鏡を見て、砂が落ちた後に自分の肌の色がどれだけ変化してるのかを確認しようとした。肌は確かに白くなっていたが、それよりも体の成長具合に驚いた。
(……あれから五年もたてば、体も年相応に成長するか)
鏡に映るすっかり大人びた自分の姿をじっくり見る。最後に鏡を見たのは九歳の誕生日だったので、その変わりように自分でもかなり驚いている。
しかし感心する間もなく、突如に鋭く刺すような痒みを感じた。急いで掌にシャンプーを出し、髪に塗りたくって手でかき回す。長年砂を浴び続けた髪は鉄塊の如き固さを誇っており、一度や二度ぬるだけではほぐれさえしなかった。
なので、次々シャンプーを追加しながら力任せに髪を素手でとかしていく。最終的指通りの良いサラサラの髪に戻すことに成功したが、その代わりに激しく体力を消耗してしまう。
さすがにこのまま出るわけにはいかないので、しばらく胸にシャワーを浴びたまま制止して休息を取る。しばらくして外に出ると、そこにはリュウがいた。彼女は私の返事を待たず、よく折りたたまれた服を二着と下着一式を私に押しつける。
「さすがにあんなボロボロで汚い服をいつまでも着続けるわけにはいかないでしょ! 君がシャワー浴びている間に、ソウマに僕が考えた服を作ってもらったんだ。きっと似合うよ!」
「ありがとう。ちなみにソウマさんはいま何をしてるの?」
「衣服制作に随分魔力を使ったようで、僕に伝言を残してそのまま寝ちゃったよ」
「伝言?」
「ある話を君にして欲しいんだって。服を着たら右側のテントに来てね! いいお茶を用意してまってるから!」
彼女は機嫌良さそうにスキップしながらテントに入っていった。それを見送った私は、ひとまず畳まれた服を開いて中身を確認する。
(おいおい、随分あっさりとしてないか? 戦う衣装じゃ無いでしょこれ)
白い半袖のシャツに黄色い長ズボンという身軽な服装に、私は少しの間呆気にとられる。
実際に着てみると、私の小柄な身体にぴったり合うサイズで仕立てられている事に気づく。
(しかもこのシャツ、肌触りがとても良い。空気の通りも良いし、もしやこの身軽さは砂漠での戦いに適した、合理的な服装なんじゃないか?)
ベルトを締め、リュウの待つテントに向かう。ジッパーを開けて中に入ると、リュウは興奮気味に拍手をして私を出迎える。
「かっこいい! 可愛くするよりかっこよくした方がいいかもっていう僕の見立てはあってたなぁ。現に似合っているし、僕の目に狂いがなかったようでよかった」
「ん? 砂漠での戦いに合わせて身軽にしたんじゃ無いの?」
「え、ああ! そ、そうだよ! 砂漠って熱いじゃん! だからそう言う服装にしたんだ」
「何か違いそうだけど……まあいっか。ところで、いざ誰かと戦うって時には鎧を着せてくれるんだよね?」
「いやいや、鎧なんか着られないよ。あんな重くて脆いだけの鉄くずなんて着るだけ無駄さ」
「……鎧が脆いなんて、そんなわけないでしょ」
リュウは私の目の前に、背後から持って来た鎧の腕部分を置く。
「一見、しっかりしてそうでしょこれ。でもね」
リュウは懐からハンマーを取り出し、それで鎧の前腕部分を思いっきり叩く。すると、鎧は大きくへこんでしまう。
「見ての通り、今この世界で作られている鎧は強度不足なんだ。近頃は鉄が不足していて、その結果防具屋はアルミ製の防具を鉄製と称して売る所まで追い詰められてるの」
「鉄不足? あり得ない。壁の向こう側には大量の鉄鉱山がある。伝説に寄ると、始祖が魔獣の数を大幅に減らしたことで危険ながらも鉄鉱山へはアクセス可能になってるとされている。単純に防具屋の技量の問題なんじゃ――」
「へ?」
目を丸くして呆気にとられる彼女。
「……やっぱりソウマの言うとおりだ。伝説には酷い改ざんがなされてるらしい」
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