新世代の勇者は絶滅危惧種 ~勇者を騙る悪党に一族を滅ぼされたので壮大な仕返しをしてやります~

熟々蒼依

第1章:始祖の勇者と最後の希望

第1話 魔王を気にせぬ勇者達

 突然だが、私スイ・トニックはいま地獄の中に居る。燃える故郷、積み上げられた多くの死体、そして大きく膨れ上がった麻袋を持ちながら汚い笑い声を上げる男達。


「まさかこんなに沢山金塊を隠し持っていたとはな。これを売り飛ばせば俺ら、一生遊んで暮らせるぜ!」

「あまりにも強く出て行けと言われたもんでつい皆殺しにしちゃったけど……まあいいか! これも魔王を倒すため、だもんな!」


 あの暴漢共をどうやら世間は勇者と呼ぶそうだ。認めたくないけど、世間における勇者の言葉の定義と照らせば確かに彼等は勇者なのだ。


 私にとって勇者とは、三百年前に世界を救った『始祖の勇者達』と呼ばれる五人の戦士の意志を継ぐ者だ。そんな勇者は今も都市部で活動していて、その魔王を倒すために今も準備を進めていると私は思っている。そして、いつか私もそうなりたいと思っていた。


 だが世間における勇者の定義は、魔王を倒すためと言い商店や民家に押し入って財の徴収を行う悪党の事を指すのだ。当然この噂も伝わっていたが、私はこの噂を頑なに信じなかった。今日実際に、その悪党を目にするまでは。


 だが私は勇者が悪だと信じたくなかったのだ。この町には滅びなきゃ成らない理由がある、そう思っていた。だから私は、何故街を滅ぼしたんだと男たちに質問する。すると男達は顔を見合わせ、肩をすくめて私を見下す。


「むしゃくしゃしたから。あと財宝を奪うため?」


 なんだそのふざけた答えは、と怒鳴りたい気持ちをグッと抑える。まだハッキリさせなきゃいけない、重要な事がある。背を向けて立ち去ろうとする男達に向け、大声で問いかける。


「待って! 私達から奪った金を、どう魔王討伐に活かすの!?」


 男たちは振り返り、ゲラゲラと大声で笑い出す。


「知らねぇよ! だって俺ら、金が欲しいだけだもん! 魔王とか本心どうでもいいし! どうせ魔王に勝てずに世界が滅びるなら、滅びる前にすっげぇ贅沢したいじゃん? 始祖の勇者様最高! アンタのおかげで、俺たちは最高に潤ってるぜ!」


 ……こうして、私は夢と故郷を失った。勇者になるためだけに今日まで生きてきた私にとって、それは死ぬ事と同義だ。


 だから、物理的にも死んでしまおうと思った。落ちていた瓦礫の破片を手に取って腹に刺したが、その瞬間に生じた激痛によって手から破片がこぼれ落ちる。地面に落ちたそれに手を伸ばしたが、震える手がそれに再び触れる事は無かった。


 しばらく痛みに悶えた後、私はある決意を固めて立ち上がる。それは、長旅をした末に衰弱死する事で楽に死ぬ事だ。それから私は街中を歩き回って金塊を集め、その道中で見つけた布袋にそれを詰め込む。この金塊は、餓死と脱水症状に寄る死を防ぐためだけに使う。


 金塊を集め終えた私は、いよいよ街と外界を隔てる門を押し開けて外に出る。そんな私の目の前には、果てしなく続く砂の海があった。生まれてこの方外に出たことが無かった私には、そんな殺風景であろう景色すら輝いて見えるのだ。


(これから私は、こういう多くの未知と出会うのだろう。ああもう。死ぬための旅なのに、楽しみが増えてしまったじゃ無いか! 未練が生まれたらどうしてくれる)


 そんな複雑な思いを抱えながら、私は砂漠に足を踏み入れる。

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