後悔
ㅤ近頃君の夢ばかり見る。
ㅤそれは時に過ぎ去った記憶で、またある時は、存在しない未来の風景だ。夢の中で、君はよく笑っている。いつも少し伏せた瞳がそのときばかりは光を吸って輝くのが、僕はとても好きだった。不意に見上げた先で桜の花が空を覆うように咲き誇っていたときのような、授業中に窓の外にかかる虹を見たときのような、そんな心地になる。
ㅤ君はゲームが好きだった。僕はゲームのことはよくわからないけれど、君の楽しそうな顔を見るのが好きだった。僕の告白を受け入れてくれたときですら見せたことの無いような真剣な表情で画面を見つめる君。その姿を眺めながら夕飯を作るのが、何より楽しかった。夕飯を作るのはいつも僕の役目で、食材を買ってくるのは君の役目だった。君が持ち帰ったビニール袋から何が飛び出すのか、いつもドキドキしていたものだ。ある日林檎とバナナとパイナップルだけを渡され、途方に暮れた日が懐かしい。挑むようにこちらを見る君の姿がおかしくて、愛おしくて、その日はフルーツのフルコースを作り上げた。驚いたような顔を浮かべた君を見つめていれば、あまりに美味しそうに完食するものだから、無茶ぶりに対する不満もいつの間にか掻き消えていた。
ㅤきっかけは、くだらないことだったのだと思う。僕と君がくだらなくないことで喧嘩することなんてなかったから。だけどきっと、そのくだらないことが酷く君を傷付けた。大人になりきれなかった僕は、君に謝ることができなかった。今の僕は、もう、君に謝ることも、両手で君を抱き締めることもできない。
ㅤ昨日君が持って行った左手は、一体何になったのだろうか。君はハンバーグが好きだったけれど、挽肉を家で作るなんてことはしないだろうから、きっとステーキになったのだろう。かつて、ソースの作り方をねだられて教えた記憶がよみがえる。微かに焦げたような臭いがしていたから、あまり上手にはできなかったのだろう。こんなことになるのなら、もっと一緒に料理をしていればよかった。
ㅤ冷蔵庫の奥底で、君のすすり泣く声を聞いた。
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