幽霊みたさ

ボウガ

第1話

 自称霊感なしのA子。彼女は高校卒業後、占い師を始めた。知り合いだれもが彼女に霊感がないことをしっているし、そうした能力がないのをしっていたが、“見える占い師”として一躍有名になった。

 彼女はそれで大人気でいい生活もできているらしい、テレビやネットで見る事も多い。知り合いたちは、彼女に会うたびに、軽口まじりに彼女を咎める。

「お前、そんなに嘘ばっかりいってるといつか痛い目を見るぞ」

「私たちが黙っているからいいものを、あまり調子に乗らない事ね」

 A子は自身家だし、鼻につくところもあったが周囲の友人に恵まれていた。だからこそよかったが、周囲の人間は皆心配をしていたのだ。


 しかし、A子はその心配をよそにこんな事をいっていた。

「ばちならもうあたっている、私ではない人に、私は、本物の嘘つきよりはまし」

「幽霊がいるものなら見てみたいものねえ、本当なら、あいつこそ、幽霊に痛い目にあわされるべきだわ」

「あいつのせいで、あれからずっと私は死ぬことばかり考えてきた」

 周囲の人間はその言葉の意味はあまり理解できなかった。


 だが彼女にはある記憶があった。昔、自称霊感もちの少女をいじめていた記憶が。

といっても、ただのいじめではなかった。少女からひどい目にあわされたのだ。害のないといわれる場所にいかされ、幽霊を見せられたり、とりつかれたり、お守りとされて渡されたものが、実は呪いの札で大けがをしたり。そのことがトラウマとなり、霊感もちが本物であろうとそうでなかろうが、そういう人間を馬鹿にするようになったのだ。ペテンの才能はあったので、彼女は、そういうものを信じる人間をつって金を稼ごうと考えたらしい。


 そんなある時、A子はある“自称、本物の霊能者”と会う事に、A子と同世代の仮名Bとする。Bとはあるネット番組で、霊能力対決として、透視能力や除霊能力、心霊写真解説などを一緒にした。番組のほとんどは事前に打ち合わせた通りに進んだが、問題が起こったのは番組終盤だった。


 フリートークと題して、AとBが会話をする。

「霊能力に目覚めたのはいつから」

とか

「普段困る事はないか」

とか

 その末に、Bがおかしなことを口にした。

「でも、でまかせばかりいって、いつかばれないか気にしないんですね」

 会場がふっと、静寂に包みこまれる。


「私、本名を○○というんです、あなたとは昔色々ありましたよね」

  その時、脳内に、様々な記憶が流れ込んできた。あるハズのない、いじめられた

記憶や、自分が、ある少女に霊感を用いて様々ないたずらをした記憶。

「そう、私はかつてあなたと深くかかわりあった友達よ、転校して離れ離れになったけれどね、ずっとあなたを探していたの、あなたは“真逆”に覚えているけれど、あなたこそが本物の霊感もちよ、その霊感で私を痛めつけ、苦しめた“理由もなく”それであなたはいじめられることになり、転校した、私は、この時をずっとまっていたの、あなたの霊能力は本物だけどあなたは記憶を隠している、あなたは、本当は本物の霊が見える、私が暗示をかけてその能力を封印したけれど、今ここで解放するわ」

 そういったとたん、Aは頭を抱えて叫びだした。

「うわああああ!!!」

 周囲に様々な幽霊の姿がみえはじめた。首をつった女の霊、頭から血を流している顔の潰れたサラリーマンの霊、工事現場で工具に体を貫かれた男性。それは彼女が子供の頃、からかって利用した霊の数々だった。


「何よこれ、何、これ、うそよ、こんなの」

「うそじゃないわ、私はあの時の後遺症で、今も片足が動かないし、精神的にトラウマを抱えて、普通の職に就けなかった、私は、今の今まであなたを泳がせて、苦しめるためにこの場を用意したのよ、本物の嘘つきはあなた、あなたが私に霊を見せて、皆の前でそこに霊がいないのにと嘘をつき私を嘲り笑ったり、本当に害のある心霊スポットで、私をひどい目に合わせたり、私を呪ったりしたのよ」


 A子は頭を抱えた。自分は今まで、ある少女にそうしたことをされ、その復讐で霊感のない人間を“演じていた”被害者を“演じていた”だけ。自分には本当はいじめられる理由があったし、人をいじめたから同じ目にあっただけ。そして今まで自分は、空想ばかりいっていたがそれは、霊が見えることと、その時のトラウマを抹消するためだったのだ。


 その後A子は鼻につく事をいわなくなったし、真面目に商売をするようになった。相変わらず占い師だが、よく当たると有名だ。たったひとつ、周囲の人間が気になることは、あの、Bという霊能者に最近よく似ていっていることだ。彼女の呪いなのだろうか、彼女はあの番組のあと、すぐに自ら命をたったという。


 それにもまして恐ろしかったのは、B子はあの事件まで彼女の傍にまとわりつき、A子の事を悪くいわないように、周囲の人間に暗示をかけていたらしいという事だった。彼女はA子にこっぴどくいじめられたあと、その年までずっと暗示、洗脳の勉強をしていたらしい。

 奇妙なのは、その暗示によってか、力をうしなっていたはずのA子が、なぜか

「トラウマのせいで死にたい」

 というB子の想いを感じ取ることができたことだ。皮肉にも、それによって運命は何も変えられなかったのだが。

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幽霊みたさ ボウガ @yumieimaru

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