ロイヤル・ジュエラーの空想係

氷守冬果

〝モダンファッションの女帝〟

 かつて、文化や芸術は男性だけに許された聖域であった。

 絵画、音楽、小説、演劇、ファッション、建築——そののどれもが閉鎖的な男社会であり、足を踏み入れようとした女性は徹底的に叩き潰された。やっとの思いで完成させた作品を夫の名義で発表され、死ぬまで本当の作者だと名乗れなかった女性もいる。

 当時、女性は人間以下の生きた付属品であり、資産であり、子を孕ませるための胎でしかなかった。

 

 ——そう。エレンデル・フェアベインが現れるまでは。


 彼女が生み出し、新たな時代の幕けの象徴となった革新的なデザインのジュエリーは、凝り固まって停滞していた業界に大きな風穴を開けた。

 もちろん全てが順調だったわけではない。デザイナーが女性であること、慣例や伝統に従わなかったことが原因で、彼女と夫のケスターが立ち上げたブランドは様々な妨害と戦わざるをえなかった。


 どんなことがあっても新作を世に送り出し続け、ファッションの世界全体に変革をもたらした彼女は、やがて歴史の教科書に〝モダンファッションの女帝〟として名を連ねることとなる。


 これは、現代まで続くハイジュエリーブランドの創業者であり、私生活では愛される妻でもあったという一人の女性・エレンデルの恋と成り上がりの物語だ。

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