麗麗STAGE2
第9話 ギュイングギュガガガガ
やあ、みんな。
間宮進だ。
みんなもさすがに気付いているとは思うが、高校二年生の八月ど真ん中と言えば、本来はまだ『夏休み』なんだ。
だけど、困った。俺みたいな補習組には土日ぐらいしか夏休みがないんだから、夏休みって気がまるでしない。
ユマもユマでアイドル時代にできなかった勉学を、またやり直せる! って感じですごく楽しそうで、自分から学校に行って自習してるし。
俺とユマの差はそういうところにもあるのかな。
まあ、それはいい。
問題は、この夏休みに、俺が色々な組織に狙われるようになってしまったことにある。
八月十五日の、終戦記念日。
その翌日の八月十六日。
もう戦争は終わり、争いは終わった翌日の日付だというのに、俺は水面下でドンパチやってる二つの組織の片方に攫われてしまった。
麗麗をお嬢様と慕う悪の組織(何度か俺は拉致られている)の仕業かと思ったのだが、どうも、今回ばかりは、麗麗は俺を守るために動いてくれていたらしい。
八月十六日といえば土曜日。そう、ユマとデートをするために、都内で黒塗りの車から逃げていたあの日だ。
ノアとミュウラに出会った日だ。
いやあ、あの日のユマは可愛かった。
いや、ユマはいつだって可愛い。
可愛すぎて、もう、なんだかおかしくなってしまいそうなぐらい、可愛い。
可愛いの無量大数乗だよな!
可愛いのノーベル賞があったら、ユマは絶対取るよな!
そんなユマとのデート終わり、ほくほく顔で俺だけのユマと恋人繋ぎをしていた俺は――
フォーミュラーカーのごとく爆走する黒塗りのリムジンに攫われ、都内某所のビルにある謎の一室に閉じ込められてしまった。
数日間……監禁された。
なんで俺ばっかり……ユマと出会ってから、なんか、こんなことばっかりな気がする。
ユマが悪いわけじゃない。
ユマと俺のデートをぶち壊す神さまが悪いんだ。出てこい、神さまああああ!
ぶっ飛ばしてやる!!!
そこに颯爽と現れた麗麗と脱出をはかるところから、まずは回想シーンスタートだ。
麗麗曰く、すべては七星アリスを勝手に慕う過激派たちの仕業だったん――
※
――〝誘拐された進くんが回想を始めるタイミングは多分これぐらいの時間かな、わたしは進くんのことならなんだってわかるんだから。ふふ〟
真宮寺ユマはキレていた。
キレるという表現は美少女にあまり相応しくないかもしれないが、とにかくユマはキレていた。
この数日、ありとあらゆる手段で、手がかりを追ってきた。
進とのデートを邪魔した連中。進を誘拐していった連中。進を監禁している連中。――壊さないと。全部。
人間としての最低限の機能を損なわない程度に、進が受けた痛みの万分の一でも味わってもらわなければ。
ユマはデートをすごくすごく楽しんでいる最中の、進の嬉しそうな笑顔を思い出す。
「だ、ダメだよ。進くん、そんな笑顔。わたし妄想の中の進くんでトんじゃう」
ポッ。
と、ガキンの音はほぼ同時だった。
謎の工具を右手にフルフェイスを被った男の足を払い、左手のハンマーを男の顔面に叩きつける。
ガゴォン! と、景気の良い音を立ててフルフェイスはひび割れ、そこから恐怖に染まった男の顔が覗く。
宙を舞い、宙で殴りつけられた。
叩きつけられた。
まるで格ゲーの二連コンボみたいに……!
謎の工具とハンマーを持った二刀流の超絶美少女に!
(あ、アニメじゃない、ホントのことだとおおお……!)
都内某所の立体駐車場――しかも監視カメラの死角となっている場所まで誘導されて、大の大人が、その道のプロが、たった一人の少女に手玉に取られる。
恐怖でしかなかった。
「そ、そんな……バカな!」
そんなバカな話があってしまった。
「わたしの進くんをどこにやったの?」
「ひ……ひい、こ、殺さないで」
「ねえ、わたしの進くんをどこにやったの?」
ガゴォン。ガゴォン。
恐怖に染まった男の顔を、ユマは無表情でハンマーで殴りつける。
「え、は、な、なんで、き、きれいに、破片が、俺に、い、っこも、刺さ、さ、な、い? って、伝統工芸かあああ!! こ、殺すなら楽に殺してくれええええ!」
「殺しはしないけど、楽には生かさないよ」
頑丈なフルフェイスヘルメットがあらぬ形に変形し、砕け、そこからスッと謎の工具が差し込まれる。
スイッチ作動。
「お、おわわわわわわわわわわ……な、ななな、だ、ダメ……それ、人にやっちゃダメ……えええええ!! アウトおおおおお! わああああああああ!」
「大丈夫。死なない方法も、記憶を消す方法も、大好きな人に好きって言ってもらえる方法も、わたしは知ってるから」
「そ、そんなわけねええ! ……う、うそだあああああ!」
謎の工具はギュイングギュガガガガグフィンズガガガガとあっちこっちから音を出し、男の頭をいじくる一歩手前まで行く。
男の眼球はぐるぐると動き、恐怖で唇が震える。
「お、わわわわわ、あああ、あああ、あああ、ダメダメダメ」
ユマがあと少し踏み込むだけで、勝手に男が壊れる間合い。
「進くんの居場所を知らないなら、知ってそうな人の居場所を教えて。今どき、拉致監禁、暗殺なんて日本じゃ流行らないよ」
「わ、わかった……わかり、ま、ひた……だから、……それ、しまって……!!」
ユマは男の頭から謎の工具を引き抜く。
と、そこに、ブオーンブオーン、とバイクの排気音。
男の仲間らしき男が、フルフェイスABCDEたちを引き連れ、ビルの中に入ってくる。
下っ端のフルフェイスFは指を震わせながら、真ん中の男を指差した。
「あ……あの人が、ししいししし、知ってます」
ユマはそちらに向き直り、工具を構える。
扉から、窓から、配管から、時には電線のようなものを伝って、ありとあらゆる場所をその両手両足で伝い、進を観察、いやストーキングしてきたユマの――強靭な脚力。
それは、進をつけ狙う連中の想像を超えた速度だった。
いや、テンポだった。
ゆらり、ゆらり、と近づいてきたかと思えば、キレのあるダンスを踊るように、加速。
もはや乗り物の間合いではなく、これは人間の間合い。
真剣の間合い。
ピンク色の髪が、残像となって煌めいた。
気が付けば、リーダー格の男は竹とんぼみたいに宙を回転し、いつの間にかバイクから転げ落ちている。
「動いたら、この人を使って一生ぶんのトラウマを植え付けるよ。目を瞑ってどうにかできるほど、わたしは優しくないから」
リーダー格の男を人質にでもするように、ユマは左腕で男の首を固め、右手の謎の工具を男の頭すれすれのところに押し当てる。
ギュイングギュガガガガグフィンズガガガガぎゅごごごごごご!!!
「や、やめなさい、それは人にやっちゃダメなやつだ!」
「ぶっちゃけ俺ら下っ端は金で雇われたから、他のやつの命なんてどうでもいいが、じょじょじょ、嬢ちゃん、それだけは、それだけはやめてやってくれ!」
「ど、どうなるかも想像がつかねえ! 今すぐこの場から消えてえ!」
「お、俺もだ! お、俺ぁもう降りるぜ!」
ギュイングギュガガギギミュヂュジジガガグフィンズガガガガぎゅごごごごごご!!!
「こ、この子、真宮寺ユマにめっちゃ似てるのに頭がイカれてるううう……!!」
※ご本人です。
「逃げたらあなたたちの居場所も見つけて、同じことをする。全員分の記憶を合わせて、わたしがどこに行けば進くんと会えるか、教えて」
ギュイングギュガガギギミュヂュジジガガグフィンズガガガガぎゅごごごごごごギュガガガガガヴォデュギュガゴゴゴゴゴ!!!
男たちは平伏した。
※
三食ちょっとエッチなお姉さんのマッサージ付きだが、一日一回しかおしっこに行かせてくれない。……俺の膀胱は限界を迎えていた。
と、そこに――
「進、助けにきたアルよ。どくネお前、頭ぶち壊されたいアルか? ――――けっ、口ほどにもないネ。
謎の部屋に監禁された俺を救出しに来てくれた美少女の登場!
ラノベか!!!!!
青いチャイナドレスを身に纏い雪のような白髪をシニヨンキャップで一つにまとめ、髪留めに鈴をつけた、お、お前は……麗麗!
って……あれ、お前が俺に監禁命令を出したんじゃ……
そこは追々聞くとして、ひとまず状況を整理しよう。
ユマとの楽しい楽しい最高に幸せなデート中に、誘拐拉致監禁された俺。
そこに登場した麗麗。
お嬢様でトップアイドルでアジアを代表する美少女が、分厚いドアを足蹴にして、「何者だ!」と驚く見張りの黒服を謎の工具でぶん殴り、汚い言葉を浴びせかけている。
「ユマの『ギュイングギュガガガガ』はやっぱスゴイ威力アルね。スイッチを作動させなくてもこの強さアルよ」
ギュイングギュガガガガってなんだ!
てか、ユマって言ったか?! ま、まさか……その得体の知れない謎の工具……ユマのお手製じゃないよな。
――ううううう……どうして、どうして、スタ女のメンバーは、こんなにも過激派が多いんだ。
俺は頭と膀胱を爆発させそうになった。
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