空階乃蒼&空階美結良

第19話 トゥーンファミリー

 アイリスプロダクション本社13階アイドル部門ミーティング室。


「ノア、ミュウラ。今日から新しい家族が増える。間宮進という少年だ」


「進お兄ちゃん?」


「進お兄さまですか。マオ姉さまとはどういう関係なのでしょうか?」


「そうか。まだ二人には話していなかったね。ボクと進くんの関係を。話せば長くなるんだけどね」


 空階そらしな乃蒼のあ空階そらしな美結良みゅうらはマオの言葉に興味を持ち、目を輝かせながら耳をかたむけた。


 彼女たちはマオを慕っている二人だ。

 特に姉のように接しているマオには、全幅の信頼を寄せており、彼女から語られようとしている物語に期待を隠せずにいる。

 

 そしてマオは語り出す。進がいかに自分と係わりのある人間であるのかという物語を。


「わ~マオお姉ちゃんは進お兄ちゃんのことが大好きなんだね」


「マオお姉さまがそこまでおっしゃるのであれば、わたしとノアも進お兄さまを新しい家族として歓迎しましょう」


「頼んだよ。それと進くんにはボクの計画を悟らせてはいけない。わかったね?」


「うん。わかった!」

「かしこまりました」


 姉妹は嬉しそうに顔を見合わせて笑った。

 という、マオが先ほど発した言葉が、姉妹にはとても印象的だったのだ。


「早くお兄ちゃんに会いたいな~」


「ノア。会いたいではないわよ。もう会ってるのよ、おそらく前世かどこかで。でないと今世でも家族にはなっていないわ」


 と、美結良が指摘する。

 そっかぁ、と乃蒼は目をキラキラと輝かせた。


 マオは双子が見せる無邪気な笑顔を見つめながら、静かに口元をほころばせた。


 ★


「間宮進さまですね。弊社13階に通すよう能上から承っております。エレベーターはあちらになります」


「あ、はい」


 マオさんからAPの打診をもらってから一週間後の土曜。俺はアイリスプロジェクトの本社ビルを訪れていた。

 もう、なんというか、めちゃくちゃデカい。

 一階の受付のフロアにはエレベーターが四つも用意されているし、お客さん用と社員用のエントランスも分かれている。

 そして何よりも驚きなのが、受付嬢さんが全員かわいいということ。


 モデルさん? アイドル? なの? 

 という感じの美人さんばかりだ。


 さすが業界最大手、アイリスプロジェクト。

 

 正直、めちゃくちゃ緊張する。俺なんかがこのエレベーターを使っていいの? 場違いじゃない? みたいな。

 そんなことを考えていると、てくてくと容姿が瓜二つの少女二人がエントランスにやってきた。


 一人はリボンで、もう一人は蝶の髪飾りをつけている。金髪に白のメッシュが入った女の子と、銀髪に水色のメッシュが入った女の子。

 二人ともふりふりのエプロンドレスのような衣装を着ている。


 な、ななな、生ノアと生ミュウラだ。

 か、かわええ。


 いや俺の推しはユマ一人だけど。


 STAR★FIELD☆GIRLの空階姉妹。


 双子ということもあって、ぱっと見ではほとんど見分けがつかないけど、しっかり個性もある。

 妹のノアは元気いっぱいな女の子で、よく動くからリボンやリボンの髪飾りをたくさんつけている。

 一方姉のミュウラはどこか神秘的な雰囲気をまとっている。


「もしかして、進お兄ちゃん?」


「え、あ。はい、そうですが」


「敬語は不要です。わたしたちの方が年下ですから」


「はぁ。どうして俺のことを? 今日が初対面だよね」


 と、俺が言うと、二人はクスクスと笑い出した。


「この時間に進お兄ちゃんがくるってマオ姉ちゃんが言ってたんだよ。わたしたちのAPになってくれるんだよね?」


「妹が礼儀知らずで申し訳ございません。空階美結良です。進お兄さまとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「あ、うん。間宮進です。二人とも、よろしくね」


 ……なるほど、マオさんからもう話が行っていたのか。

 それにしてもあれだな。プライベートでも妹キャラを守ってるんだな。なんかちょっぴり感動だ。

 エレベーターのドアが開くと、二人は俺の手をぐいぐい引っ張ってくる。

 というより、がっちり両の腕を抱えられている。


 ちょ、ちょっと待って……こ、この密着感はまずいですぞ!?


「あ、あのさ。二人ともちょっと離れてくれない……?」


「えー、どうしてー? 進お兄ちゃんはわたしたちのこと嫌いなの?」


「いえ、嫌いというかなんというか……」


 まず初対面だし。それにトップアイドルに密着されるとか、一般庶民の俺には刺激が強すぎる。二人ともそこそこに豊かなものをお持ちだし。

 やべえ、俺の腕にパパパーイの感触がダイレクトアタックしてるんですけど。


「ノアはこんな性格ですので、お許しを。さあまいりましょう」


「いや、ミュウラも……くっついてきてるよね」


「お気になさらず。わたしとしては進お兄さまには、もっと密着していただけたらと考えておりますので」


「はいー?」

 

 エレベーターが13階に止まると、ノアとミュウラががっちりと俺の腕をホールドしたまま先導してくれた。


「し、進くん?」

「やっと来たのね進」

「やあ少年、久しぶりだにゃ」

「……進、お久アルね」

「進先輩~?」

「ようこそ。進くん。アイリスプロジェクトアイドル部門へ」


 ユマにれおなに綺羅さん、麗麗に璃々愛にマオさんまで勢ぞろいしていた。

 ダンスの練習中だったのだろうか、ノアとミュウラとは違い全員がラフな格好をしていたので、目のやり場に困る。

 一応全員と面識はあるけど、みんながみんなトップアイドルなわけだし。

 なんかやたらと視線を集めているような気もするし。


 ……俺は第一声にどんな反応をすればいいんだろうか。


 と、そんなことを考えていると、璃々愛が一歩前に出てきた。


「なんですか~その後輩属性より圧倒的に強い妹属性に屈しました的なお兄ちゃんキャラは? 進先輩の急なキャラ変にリリちゃん絶賛戸惑い中です」


「進はすけこましアル」


「あーいや……これはなんというか、さっき下で会って」


 そう言えば、璃々愛と麗麗ってなんか名前似てるよなー、とかどうでもいいことを思いながら、俺はそう答えた。


「ちょっと進。あんたいつからシスコンになったわけ?」


 一番うるさい奴が絡んでくる。れおなだ。

 

「いやそもそも俺の妹という前提で話を進めないでくれ。ノアとミュウラは妹属性のアイドルってだけであって、俺は本当のお兄ちゃんではない」


「じゃあなんで二人をふりほどかないんですか? 両腕に密着されてデレデレしてるじゃないですかー」


 ぐっ、璃々愛に痛いところを突かれてしまった。

 確かになんか二人とも柔らかいし。いい匂いもするし、正直めちゃくちゃドキドキしてるけど……。


 って、ユマもいるのに何考えてるんだ俺。


「お兄ちゃんのこと悪く言わないで」

「お兄さまの妹愛は無限大なのです」


 などと、二人は俺をフォローしてくれた。


「こらこらノア、ミュウラ。話をややこしくしちゃいけないぞ」


「やーね。これだからシスコンは。まあいいわ。進にはその内お姉さんの魅力ってやつを教えてあげるから」


「ん? お前のどこがお姉さんなんだ?」


「わかってるわかってる。認めたくないのよね、自分が弟キャラだってことを。そういう年頃だってことはわかってるから、安心しなさい。私は進のことならなんだってわかってるんだから」


 こいつだけは緊張しないでいられるんだよなー、とれおなの強気な態度にどこか安堵感を覚えながら俺はため息を吐く。


「ぷはっ。れおな先輩ちょっとこじらせすぎじゃないですかぁ?」


「なにいってんの璃々愛。それはあんたのSNSでしょ」


「……リリちゃん……今年一番のイラッを体験中……」


「短気は損気よ。カルシウム取った方がいいんじゃない。私は毎日牛乳を飲んでるわよ」


 いや俺が知ってる限り一番短気なのはお前だけどな。だってお前、猪みたいだもん。

 れおなと璃々愛が一触即発の空気を漂わせる中、ユマがあたふたとしながら俺の方を見ている。ご、誤解だからな。わかってくれるよな?


 と、そこでパンッパンッと手を叩く音が鳴った。

 マオさんだ。

 ノアとミュウラを除く全員が姿勢を正し、マオさんの方を見た。


「みんなにもあらかじめ伝えておいた通り、今日から彼、間宮進くんをAPとして迎え入れる。よろしく頼むよ」


 マオさんの言葉に、全員が返事を返す。


「ま、間宮進です。よろしくお願いします。で、俺は……その、なにをしたら……」


 俺はマオさんに視線を向ける。

 マオさんは微笑を浮かべて頷いた。


「覚えてもらうことはたくさんある。けれど初日からあれやこれやと詰め込んでも混乱するだけだからね。とりあえず今日は、顔合わせということで、みんなと交流を深めてもらうことにするよ」


 こうして俺は、アイリスプロジェクトのアイドル部門に足を踏み入れた。





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