能上マオ
第10話 ラスボスの初登場
「――ということになってるわけだよ。大体の状況は把握できたかい璃々愛?」
「ありがとうございますマオ先輩。事情はだいぶ把握できました。ユマ先輩とぉ、れおな先輩が進先輩に接触してる経緯はそういうことだったんですねぇ」
STAR★FIELD☆GIRLのメンバー、黒姫璃々愛と
璃々愛がマオに相談を持ち掛け、物知りな彼女に事情を説明し、意見を仰ぐための場である。
璃々愛は紅茶を一口啜り、ふぅ、と息を吐きながら、その唇を開く。
「マオ先輩はホント凄いですねぇ。なんでも知ってて、リリが相談したら何でも答えてくれますし本当のお姉ちゃんみたいです」
「思ってもないことを口に出すものじゃないよ璃々愛。まあその個性がキミの魅力なんだろうけどね。それで、ボクは助言を求められてるわけだけど、どういった報酬が貰えるのかな?」
「指定の額を口座に振り込む、でいいですかぁ?」
璃々愛はスマホを取り出し、電卓アプリで非常識な額面を打ち込む。
マオは目を丸くしながら、しかしすぐに笑い出した。
能上マオ。STAR★FIELD☆GIRLのメンバー兼プロデューサー。メンバーの中で一人だけ19歳、大学一年生という若さで、他の全員をプロデュースし支えている。
パープルカラーの長髪をセンター分けにしていて、見た目は大人っぽい。マオ自身はそれをチャームポイントと自負しているが、いちいち口には出さない。服装も韓国のトレンドを取り入れており、メンバー曰く“オシャレでキレイ”。
マオはひとしきり笑うと、璃々愛が提示した金額を一瞥し、やれやれと肩を竦めた。
「アイドル活動で得たお金を、こんなことに使って欲しくはないんだけどね。まあ可愛い後輩の頼みだし、今回だけは大目に見ようか。情報には対価が必要だからね」
「はい。心得ています。マオ先輩はぁ、そこらの占い師や霊媒師なんかよりもよっぽど頼りになるので、今後もご贔屓にさせて頂きます」
「ははは、お褒めに与り光栄だよ」
「ずっと疑問に思ってたんですけどぉ、マオ先輩はそーいう情報をどこから仕入れてくるんですかぁ?」
「仕入れる、というよりは降りてくる、かな。ボクは情報の渦から、必要な情報を上手に掬い取ることに長けているんだ」
「情報の渦?」
璃々愛が首を傾げると、マオは頷いて続けた。
「そう。アカシックレコードともいうね。まあこんな話をしても大半の人は信じてくれないけれど、私にはそういう能力があるのさ」
「リリちゃんにはそういうの、わからないんですけどぉ……でもマオ先輩が嘘をついてないってことだけはわかりますよ?」
「キミは人の懐に入るのが上手だな璃々愛。今の台詞をユマに言われていたなら信じていただろうけどね。キミは今こう考えているはずだ。化物って、ね。実際、信じて貰えない前提で話してるから、全くもって構わないんだけど、化物は少し傷つくかな」
マオがおどけた態度を取ると、璃々愛はクスクスと笑った。
「ゴメンナサイ。そんなことまでわかっちゃうんですねぇ」
「キミは顔に出るからね、すぐにわかるよ。さて、キミの悩みを解決してあげよう。と言ってもボクにできるのは、あくまで助言に過ぎないけれど」
「うん、それで全くかまいませんからぁ。……で、リリはどうすればユマ先輩に勝てると思います?」
「難題だ。間宮進くん。彼のユマへの愛情は、もはや信仰の域に達している」
「そんなぁ……。じゃああの二人は本当に両想いってことですかぁ? 憧れとか、尊敬とかじゃなくて……恋愛感情としてぇ?」
「全部だよ。全部ひっくるめて、感情だ。それはユマも同じ。彼女は進くんにゾッコンなんだ」
「でもぉ……」
璃々愛は納得できないのか、腕を組んで考え込んでいる。すると、マオは見透かしたように言った。
「なんであのふたりが交際してないのか? そんな疑問が浮かんでるんだろう?」
「……だってそうじゃないですかぁ。それだけお互いに好きなのにぃ」
「情報料追加で教えてもいい。ただそれを知ったからって、何が変わるわけでもないけどね」
マオのその物言いに、璃々愛はまた考え込む。そして数秒後、結論が出たようで顔を上げた。
「うん、わかりましたぁ。ユマ先輩が進先輩と付き合えない理由が知りたいですぅ」
「わかった。ユマと間宮進は約束をしている。ユマが真のナンバーワンアイドルになったら間宮進が何でもお願いを聞くという約束だ。この約束がある限り、間宮進はユマに手を出せないし、ユマもまた同様だ」
「…………な、なんですかぁそれ?」
「特別にタダで教えるよ。間宮進はユマのファン一号なんだ。ボクも地下アイドル時代、彼をよく見かけた。れおなや璃々愛は途中加入だったから知る由もないだろうけど、とにかく、現状は、あのふたりが結ばれることはない。だからキミは、もっと積極的にアプローチを仕掛けるべきだろう」
「もっと具体的なぁ、アドバイスをお願いしまぁす」
璃々愛がそう要求すると、マオはまた考え込んだ。そして数秒後、口を開く。
彼女のアドバイスは、奇抜であり、また大胆なものだった。
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