推しって言ってくれたよネ?

暁貴々

第1章

真宮寺ユマ

第1話 全人類は皆兄弟

 全人類は皆兄弟。

 元気があればムラムラもする。


 老若男女ろうにゃくなんにょ関係なく、誰だってハスハスの一つや二つ行うものだ。


 そして、その行為中についつい脳裏に思い描いてしまう存在が、『推し』とか呼ばれる方々なのである。


 多分。



 ★



 ついについに……『推し』の履き物を手に入れた。


 。自室のベランダから隣のベランダに飛び移って、洗濯機の中から入手した匂い付きだ。


 大丈夫、問題ない。

 等価交換の原則だ。


 新品とすり替えておいたので、バレる可能性は限りなく低い。


 ここは地上四階。

 柵から滑り落ちてあの世行きの可能性もあったわけで、リスクを取ったのだから、これぐらいは許されていいはず。


 百人の異性おとことすれ違えば百人が振り返りそうな『絶世の美少女』は――


 左手に戦利品パンツ、右手でマウスをカチカチしながら、ハスハスしていた。


「はぁ……はぁ……しんくん、進くん。わたし達、両想いなんだね。嬉しいよ……」


 ディスプレイには、幼さの残る高校生男子が、抱き枕をかかえた姿で映っている。あらゆる角度から撮影された『盗撮映像』に、死角はない。


「約束覚えてくれてるよネ……? もう少しだよ。次のシングルで、一位を独占できれば……日本一のアイドルになれるから」


 うっとりとした表情で、少女はし続ける。

 匂い付きトランクスをくんかくんかしながら。


 彼――間宮まみやしん、の部屋にカメラを仕込むのはかなり苦労した。窓の鍵が開いていたのは神様からのお告げ。すなわち千載一遇のチャンスに他ならなかった。


「ホント無用心なんだから……進くんの魅力に気づいた女の子がストーカー化したら、危ない目に合うのは進くんなんだからね。でも大丈夫だよ、わたしが守ってあげるから……進くんに変な女が近づかないよう、しっかり監視しておくから」


 少女は『進くん』に恋をしている。


 理由はシンプルだ。

 彼女がまだ無名だった頃地下アイドル時代から応援してくれているファンだから。


 進くんを意識し始めてからというもの、好きという感情が爆発的に膨れ上がった。なので、こうして彼の私生活を記録することにしたのだ。


 もはやこれはではなくだという自覚さえある。


 だが、当然の事ながら、は一方通行では成り立たない。


 だから、約束をしてもらった。

 握手会に来てくれた進くんに、一方的にだが、約束を取り付けた。


 日本一のアイドルになったら、その時は……――と。

 その願いは叶いつつある。


「進くんも応援してくれてるって言ってくれたもんネ……?」


 それに『推し』だと宣言してくれた。

 あとは総合ソング・チャート1位さえ取れれば、名実ともに約束を果たせるに違いない。


「はぁ……ぁ……ぁ、進くん、はぁ……ぁ……そんな風にわたしの抱き枕をぎゅっとしないで……自分に、嫉妬しちゃう、おかしくなっちゃう」


 美少女は、匂い付きトランクスを鼻に押し当てた。

 思いっきり息を吸い込んで、スーハーすーはーハスハスする。


 それはまるで、恋する少女の様に。


 監視、という名目で設置したはずのカメラだったが。

 そんな理由などどうでもよくなるぐらい、推しが尊い。


 ダメだとわかっていてもハスハスせずにはいられない。


 仕方がないのだ。だって人間だもの。


「……わたし、悪い子だけど、これも全部、進くんの事が大好きだからなんだよ……?」

 

 神に誓って、純愛だと断言できる。


 だがしかし、であるのは間違いない事実だった。



 ☆



「ユマ好きだ……! 好きだ……!」


 今や国民的アイドルとなった真宮寺しんぐうじユマの抱き枕を強く抱擁しながら、俺はハスハスと顔を埋めて、息を吸ったり吐いたりしている。


 この枕カバーはユマのデビューシングルである〝ドリーム☆ドリーマー〟の衣装であり、公式グッズとして販売されていて、勿論、即効で購入した代物だ。


 観賞用、保存用、使用用、布教用。


 使用済みは……以下略。

 

「はぁ…………ユマってマジで可愛い、よな」


 いやもうホントに好きすぎて、ついついそんな独り言が漏れる。

 抱き枕をかかえたまま、部屋の壁一面に貼られたポスターをぼーっと眺めていると、


 その中の一枚。


 ピンク色の髪をハーフアップにした、青い瞳の美少女が、俺に微笑みかけてくれた。


「ま、まぶしい……! まぶしすぎるぞぉ」

 

 俺の推しはいつだって眩しい。

 ポスターの中にいても、神々しい輝きを放っている。


 現役高校生アイドル、真宮寺ユマ――〝STAR★FIELD☆GIRL〟の圧倒的センターで、ファンからはユマぴと呼ばれている。


 ちなみに〝STAR★FIELD☆GIRL〟というのは、十代の若者に圧倒的人気を誇るティーンアイドルグループだ。メンバーは八人、赤とか緑とか派手な髪色の、可愛い系からカッコイイ系まで勢揃いで、ユマもその中の一人。


 ユマは十代の女の子とは思えないほど大人びていて、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ抜群のスタイルをしている。

 歌もダンスも上手で、まさに〝スーパースター〟の名を冠するに相応しい。


「……地下アイドルだった頃は、いっぱいお話できたんだけどな。――……いや、何考えてんだ俺。推しの大成を望まないで何がファンだ」

 

 俺は自分の頬を叩く。地下アイドル時代が懐かしいなとか一瞬でも思った自分が恥ずかしい。


 ファンなら、推しの飛躍を応援するべきだ。


「……同い年、なんだよな。意識しない方が無理か……」


 抱き枕をかかえてゴロゴロとベッドに転がりながら、俺は改めてポスターの中のユマを見つめた。

 年齢は十六歳、高校2年生で、俺と同じ世代だ。


 実は誕生日が同じだったりする。

 それだけで何となく親近感が湧いて、余計にファンになった。


「約束もしたんだよなぁ……まぁ、向こうはもう忘れてるだろうけど……」


『わたしが日本一のアイドルになったら、お願い聞いてくれる?』

『も、もちろんだよ』


 昔、握手会で交わしたそんなやりとりを思い出す。


 わかってる。

 どう考えたってあれはファンサだ。アイドルらしい、営業トークの一つに過ぎない。


 わかってる……。

 アイドルにガチ恋なんかしたって、虚しいだけだってことは。


 でもいいんだ。

 デビュー当時から応援していた推しが笑顔でいてくれるだけで幸せだから……

 それがファンってもんだから、営業トークだっていいのだ。


「……俺だけが覚えてればいい。はぁ……はぁ……」


 尊い推しをオカズにして、ハスハスすることに罪悪感を覚えないわけではない。

 

 でも仕方ないだろ、人間だもの。

 俺はユマの抱き枕に覆いかぶさりながら、ハスハスを続行した。


 アイドルって、ホント罪作りな生き物だと思う。



 ★



  ――数十分後。


 大事な大事なユマのポスターの『青い瞳』の部分に……直径2センチほどの穴があいてることに気づいた。


 新手の虫にでもイタズラされたのかと思ったが、穴は明らかにで……


 先日、隣に引っ越してきた人がヤバいやつなのでは?


 という疑惑が浮上し、俺はおそるおそる穴のあいた箇所から『向こう側』の世界を覗いてみることにした。


———————————————————————————


 全人類はみなキョウダイ♪


 どうも暁貴々と申します。笑

 ストーカー、ヤンデレものが人気そうなので、ギャグ多めの振り切ったラブコメを執筆しようと思います!


 ☆☆☆とフォロー宜しくお願いいたします。


 私のフォローもして頂けますと感無量でございます。

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