第14話「帝国特殊部隊」

14.「帝国特殊部隊」ラノズ・ヲクウェナ少佐


 ブローダ・コロニー(ブローダ星系)


  属 

  ガヨート・スケリュゼEK4389‐595

 (以下、略)星系


  属

  スケリュゼ・ブレゲルシダUA9132‐103

 (以下、略)銀河


  属

  ゾルドーン・セブルケッツDD7302‐489

 (以下、略)宇宙


  属

  ローケス・ユーヤナKM117‐231

 (以下、略)インペリオーム



 アブリエ・イロク銀河外縁部に位置するブローダ星系。その宙域で静かに留まっているのは犯罪王として名が知れていたツゥケァル・ゲウス・ゲルタックの秘密宇宙コロニーだ。

 このコロニーは全体を特殊な金属と塗料コーティングで加工し、からじょうされたゲート・ジャミング・アレイを搭載している。これらのステルス技術を用いることで長い間、軍の宙域しょうかい艦隊や警備用アンスケルに見つからず、情報局や保安局の目から逃れ続けていた。


司令部HQ、こちらガヨート1‐1。まもなく侵入ポイントに到着。長距離通信を一時切断する」

『了解』

「各員、予定進入ルートを維持せよ」


 ブローダ・コロニーへ向かい、マイナス270度の宇宙空間を〝飛ぶ〟複数のヴァラッジ特殊作戦グループ隊員達。彼らは帝国軍の特殊作戦用アーマースーツに推進用スラスター及び推力へんこうノズル、補助スラスターが一体化した高機動ユーティリティ・ブースターを装着。これらは装着者の望む理想的な移動を可能にするよう、動力部とへんこう部が流体結晶で構成され、必要に応じナノ単位からセンチ単位で形や厚さ、長さ、角度、ごうじゅうが常に変化していた。このブースターは水中でも使用でき、ブースター未使用時は各パーツが折りたたまれ、通常戦闘でも邪魔にならないよう背中にいっかつ格納される。


 部隊を率いるのはラノズ・ヲクウェナ少佐。ヴィアゾーナで教師をしているラストン・ヲクウェナの実兄である。


「ローケス4は脱出艇を、ザウケン3はメインホールを押さえろ。連中を一人も逃がすな」

『もちろんですよ。誰一人、逃がしません』

『お任せを。一瞬で終わらせます』


 三つの四人班に分かれ、コロニーへたどり着いた隊員。左腕に装着されている収納式可変ブレードで宇宙船ドッキング用ドアを切り抜き、抜け穴を開けた。

 隊員らは銃を構え、連絡通路へと侵入。


「すぐに穴を塞げ」


 一番後方の隊員がピンポン玉ほどの球体をドアに投げると一気に広がり、膜のように穴へ張り付いた。


「警報装置を無力化するまで待て」


 腰のベルトから軍用ナノマシンが封入されたカプセルを取り出し、電子ロック式ドアの操作パネルへ中身を振りかけた。ナノマシンはドアの制御システムを乗っ取るだけでなく、ケーブルで繋がった他のドアにも伝達していき、次々とコロニー内のセキュリティ・ドアを無力化していった。


「おおかたの警報装置は無力化できたはずだ」


 再び左腕の収納式可変ブレードで素早く、ドアを切り抜いていき、外をスキャンした。


「この先、左の通路に静止している敵が二名」


 便利なことに特殊作戦用アーマースーツの多機能ブーツは歩いても足音がしない。ラノズは部下を連れて通路を前進。左の通路にいるグーツ(カエル系ヒューマノイド)の武装兵を確認するや否や、正確な射撃で頭部を撃ち抜き、それぞれワンショットキルした。


「クリア。マイラ、フィロ、右を任せる。重力制御室を制圧しろ。制圧後は予定通り記録保管庫へ向かえ。オブは私に続いてGJAの無力化だ」

「お任せを」


 二人を右へ割り振ると、ラノズはオブとともに左の通路へ。


「少佐殿、ゲルタックにゲート・ジャミング・アレイ(GJA)を提供したのは誰なんでしょうか?」

「分からん。ゲルタックを尋問したゼラス卿によるとゲルタックの記憶の一部は消去されていたそうだ。あの犯罪王の記憶を消す奴だ。相当イカれた奴に違いない」

『こちらローケス4、全ての脱出艇を押さえた』

「了解だ。ローケス4」


 ヴァラッジ特殊作戦グループは潜入、暗殺、破壊工作、情報かく乱、長距離偵察、人質救出、無重力下戦闘といった通常の部隊では対処できない困難な任務を少数で遂行するために創設された帝国宇宙軍の多目的特殊部隊である。宇宙軍所属ではあるが、それは名目上のもので、実際は地上、宇宙問わず活動している。現代の帝国技術から低レベル・テクノロジーといった幅広い技術の取扱いにけ、膨大な数の言語を翻訳機無しでも理解し、話すことができる。


「それに民間企業がGJAを製造することは不可能だ。軍関係者がGJAを横流しした。それしか考えられない。おそらく情報局は今ごろ容疑者リストを作成しているだろうな」


 ゲート・ジャミング技術はゲート技術以上に規制が強く、一般人がえつらん、使用、所有、製造、管理することは一切禁じられている。それ以上にゲート関連技術のため、非常に高度で専門的な知識を幅広く求められることから、一般人がゲート・ジャミング技術を理解することはまず不可能。


『ザウケン3、メインホールを制圧』

「了解。ガヨート1‐1はこれよりGJAの制圧にかかる。オブ、この扉の先に生体反応が四つある。合図したらクラスター・スピアを入れろ」

「イエッサー」


 ラノズとオブの二人はゲート・ジャミング・アレイ制御室の扉の前に立った。ラノズは扉の右側に立ち、左手に銃を持ち替え、右手でドアの開閉パネルに手を置く。


「よし、今だ」


 ラノズがドアの開ボタンを押すと同時にドアがスライド、中が見えるか見えないかのタイミングでオブはクラスター・スピアを左手で投げ入れた。

 放たれたクラスター・スピアは内蔵されている心拍センサーと赤外線センサーで中にいる四人の敵を感知し、複数の鋭いトゲへ分裂。真っすぐ胸部へ飛行、心臓を貫通した。


「中はクリアだ。オブ、GJAの電源を切って、艦隊にコロニーの座標を伝えろ」

「了解」


 オブはグーツ警備兵の死体を横目にゲート・ジャミング・アレイの操作端末へ向かった。通常、操作端末には管理者以外が操作できないように認証コードが設定されているはずだが、この操作端末には設定されていない。何ともずさんなセキュリティだ。おそらく外部から敵が侵入してくることを想定していなかったのだろう。


 ‐ゲート・ジャミングを実行中です。

 ‐ゲート・ジャミングの停止準備中。

 ‐ゲート・ジャミングは正常に停止しました。


「HQ、こちらガヨート1だ。コロニーの座標を特定した。座標をアップロードする。船をよこしてくれ」

『了解』


 ゲルタックの秘密コロニーについての正確な空間座標を得た帝国軍特殊作戦司令部はゲートにより、第二級C3特殊作戦艦ラゾーダ三せきを送り込んだ。


『ガヨート1、この宙域はクリアだ。情報を回収してくれ』


 ラゾーダはヴァラッジ特殊作戦グループが愛用している巡洋艦。全長1,420メートルとゼイナートよりも小型だが、その分、小回りが利き、他種の艦船には搭載されていない特殊兵装が搭載されている。


「了解。各員、コロニー内の情報をかき集めろ。ゲルタックに物資を提供した存在を見つけ出すんだ」


 ラノズらヴァラッジ特殊作戦グループの隊員はコロニー内にある情報端末や書類、データディスクを集め、コピーできるものはコピーした。


「ホラット、コロニーの監視映像を出せるか?」

「すぐに出せます」


 コロニー内の保安システムを調べているホラットはラノズの要望通り、次々と空中へ録画された監視映像を投影、再生させた。


「なるべく古いモノが見たい」

「了解です。最も古いのはこのコロニーが稼働し始めた頃のモノだと思われます」

「流してくれ」


 帝国標準時間でおよそ三年前の映像が六つの枠で再生される。


「二番を止めてくれ」


 ナンバー2の枠で再生されていた映像にラノズは食いついた。


「こいつだ。ゲルタックと話をしている。ゲルタックの表情を見るに相手の方が格上らしい。何者だ?」


 フードを深く被っている謎の人物。この人物から何らかの指示か、依頼をゲルタックは受けていたようだ。


「何かを渡しているな」


 謎の人物はゲルタックにメモリーディスクのような小さな板状の機器を差し出し、ゲルタックは恐る恐る謎の人物からそれを受け取った。不思議なのは受け取った後にゲルタックが何故かあんの表情を見せたことだ。彼にとって、謎の人物から手渡しされるという怖かったように思える。


「ホラット、この人物の素顔を洗い出せないか?」

「正面から捉えた映像もあるにはあるのですが、どういう訳か顔を検出できません。おそらくですが、リアルタイムで保安システムにかんしょうし、自分の素顔を見えないようにしていたかと……」

「馬鹿な、こいつに変わった動きも装備も見えない。他に協力者がいるようにも見えない。どうやってそんなことができる」


 もしも、本当に大掛かりな装置や協力者無しで保安システムに介入できる技術を持っているとしたら、それは非常にまずい話であった。帝国軍のスキャナーはもちろん、アンストローナ兵やアンスケルのスキャンにも介入し、無効化できる可能性が高い。


「こいつはサズウェルの反乱組織と関わりがあるかもしれん。ゲルタックの記憶を消したのもこいつに違いない」


 ゲルタック本人は記憶の一部が消されたことに気が付いておらず、記憶にない事は尋問したカーディナルのゼラスでも聞き出すことはできない。


「HQ、手掛かりを入手した。すぐにこの人物を最重要指名手配してくれ」


 ラノズはすぐさま帝国軍特殊作戦司令部へデータを転送した。


『こちらHQ、データを受信しました。この人物には仮称として〈イヴァス〉の名が当てられました。現在、情報局と保安局が調査に当たっています。少佐、貴隊はコロニーから撤収後、装備を整えラクシアータへ向かってください』

「ラクシアータ? 何があった?」

『シタデル・タワーからの連絡が三日前から途絶。調査に向かった情報局エージェント及び特別犯罪対策部隊とも連絡が途絶えています』

「了解」


 正直、ラノズはゲルタックと繋がっている謎の人物の追跡をすぐにでも取り掛かりたいのだが、上からの命令とあれば仕方がなかった。シタデル・タワーが反乱組織やテロ組織の標的になることは多々あり、激しい攻撃を受けたシタデル・タワーが通信不能におちいることは考えられない話ではない。

 問題なのは情報局エージェントと特別犯罪対策部隊の両者が通信できない状況に置かれているということである。これは並々ならぬ事態だ。


「各員、コロニーから撤収後、我々はラクシアータへ向かう。非常事態だ」


 コロニーからの撤収を始めるヴァラッジ特殊作戦グループ。


「丁度、迎えが来たようだ」


 先ほど到着したラゾーダからアンストローナ兵を乗せた第一級B1多目的輸送シャトル〈ディペロ〉がコロニーに直接テレポート・ドッキング。

 降りてくるアンストローナ兵の横を進んで隊員らはエイヴスへ乗り込んだ。


「次の任務は厳しそうだ」


 彼らに休める時などない。

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