第12話「三貴族の奉仕活動」

12.「三貴族の奉仕活動」アラルナッド・フーガ子爵


 カルトナ・ガルシズ(カルトナーラ星系)


  属 

  ラルハル・ブレゲルシダFH5317‐220

 (以下、略)星系


  属 

  アグルファ・ガヨートAB0055‐002

 (以下、略)銀河


  属 

  ザウケン・ギューザンVV8878‐110

 (以下、略)宇宙


  属 

  ロラックィ・ヴノUZ307‐667

 (以下、略)インペリオーム


 貴族、それは帝国内でもカーディナルに次ぐ特権階級に位置する。一部制限があるものの個人用ゲート・ポータルの使用が広く認められ、場合によっては軍施設や軍艦へもテレポートが可能。高度な医療保障及び肉体の不老不死化(擬似アンストローナ化)、未開拓惑星(原住知的種族がいない星)の所有申請権、私的財産保護のための私設軍隊の創設権といった数々の権利を有する。

 ただし、帝国における身分等級は3標準年毎に更新されるため、終身貴族というものは存在しない。そのため、貴族は一般の臣民以上に帝国への貢献が求められ、同時に帝国へ貢献することは貴族の義務とも言えた。


 カルトナ・ガルシズは五年前に帝国へ編入された惑星である。原住種族はラゴーズ(角のような突起を二つ有する近人間種)。彼らは惑星全体の気候変動によって、絶滅の危機にひんしていた種族であった。帝国に進んで編入を求めた文明であり、現在は帝国の気候操作技術の恩恵もあって、惑星は安定した気候となっている。各地では治安維持と復興援助のため、無数のアンストローナ兵が活躍していた。

 そんな中、貴族の一人、アラルナッド・フーガ子爵(カファルブ人の男性)はカルトナ・ガルシズを訪れ、現地視察を行っていた。


「だいぶ街が発展しているようだ。素晴らしい光景だ」


 カルトナ・ガルシズ赤道付近に位置する街ファーマス。ここは五年前まで海の底に沈んでいた土地であった。今では立派な水路を備えた水上都市となり、見違えるほどの発展をげていた。


「帝国の技術に支えられ、我々も生き延びることができました。皇帝陛下には本当に感謝しております」


 ファーマスの行政執行官、ナヌルウェ・オオバクはアラルナッドとともに水上かいろうを歩いていた。


「とはいってもまだまだ大変な時期であるはずだ。オオバク殿、私はファーマスの更なる発展のため、協力を申し出たい」


 貴族が復興中の惑星や編入直後の惑星に協力を申し出るのは何も特別なことではなかった。むしろ、このような大きな貢献ができるのは貴族としてまたとない名誉であるため、貴族としては当然の話であった。


「それなのですが、フーガ殿と同じ申し出を他のお二方からも受けていまして……」

「その二人というのはまさか」


 アラルナッドはすぐにの名前を思い浮かべた。それと同時に背後から彼を呼ぶ声がした。


「おーい、アラルナッド殿~」

「偶然だな、貴殿もこの星に来ていたとは」


 一人は低身長のユラ(ネコ系ヒューマノイド)男性、オドル・パスウェラー男爵。もう一人は高身長のゲンラ(クモ系ヒューマノイド)女性、パラミス・オークドット伯爵だ。


「でた。オドル、パラミス。私のすうこうな奉仕活動の邪魔をする気か?」

「そんなことはない。そうですよね、パラミス殿?」

「左様。奉仕活動しようとした星がたまたま貴殿と同じ星であっただけのこと」

「絶対うそだな。パラミス、顔が笑っている。どうしてこの星に来ると分かった?」


 この二人の貴族はもはや腐れ縁だ。偶然であっても行く先々で出会ってしまう。アバター兵で戦場に出ているときもだ。もう、あまりにもよく出会うので今では事前にグループを組んで、ボランティアに出ることにしている。


「それは秘密。とにかく抜け駆けしようとするのは無しということだ」


 パラミスはゲンラのため六個の単眼を持つ。それぞれの単眼が別の方向を見ることもできるそうだが、基本的に同じ方向を見ている。


「いや、もう一緒なのは戦場でのボランティアだけでいいですよ……そう、これは私的な奉仕活動なので。そもそも戦場のボランティアも私的なはずなんだけどな、おかしいな」

「我ら三貴族、いかなる時も一緒ですぜ~」

「オドル、くっつくな。離れろ。貴族というものが恥ずかしい。オオバク殿、すいません。この二人ですよね。ええ分かっています。こいつらですね」

「ご友人でしたか」

「まあ友人というか、厄介者というか、ストーカーというか」

「ストーカー? 心外だぞ、アラルナッド」

「パラミス、今は貴方の番ではありません」


 ちなみにアラルナッド、オドル、パラミスの三人は帝国軍ボランティアの中でも名の知れた貴族グループとして知られる。普通、貴族は単独でも相当の実力を持つため、集団行動よりも単独行動を好む。ゆえに、貴族同士で手を結ぶことは珍しい。ライバルと手を結ぶことと同義であり、名誉ポイントの稼ぎにも影響する。

 三貴族として有名なこの三人は当然、個人それぞれが高い技量を持っている。その上で三人が連携することにより、カーディナルにも匹敵する力を発揮し、軍上層部から激戦区や文明レベルの高い戦場での応援を依頼されることがある。


「まあ落ち着け、アラルナッド。ここはひとつ、オオバク殿のために我ら三人で協力しようではないか」

「私一人でも事足りますんで」

「つれないですな~」

「はぁ……オオバク殿、今、必要なものは何でしょうか? 何でもおっしゃってください。私達、三人ならば大抵の悩み事は解決してみせます」


 アラルナッドはパラミス、オドルの二人を止めることは無駄であるとさとあきらめた。


「そうですね、医療センターがもっと増えればと思っております」


 多種多様の種族が共存している帝国では医療施設も、医療関係者も、非常に重宝される。


「それぐらいなら容易たやすいことです」

「左様」

「余裕ですぜ~」


 三貴族の呼び名はではない。貴族の身分は保有資産で決まるものではないが、彼らの総資産は貴族に相応ふさわしい額であった。


「後で必要な数と建設予定場所を教えてください。専門業者を派遣しますので」

「ありがとうございます」

「他に要望はありますか?」

「産業活性化のためにお力添えして頂ければと思います」


 カルトナ・ガルシズの主要産業は五年経ったとはいえ、まだまだ落ち込んでいる。輸出分野も観光分野も振るわず、厳しい状況だった。


「では私の」「私の」「あっしの」

「「「会社を誘致するということで」」」


 見事に三人の回答が一致した。


「「「うん?」」」


「ここは私の持つファローク・グループが最適でしょう」


 アラルナッドの保有するファローク・グループはファローク・エンジニアリングをはじめとする大企業集合体である。帝国で使用される宇宙船の多くに同グループが関わっている。


「いや、私のザイエス・グループの誘致が正解だ」


 パラミスの保有するザイエス・グループはザイエス・ロジスティクスを筆頭に星間物流をになっている。一般人や企業は軍と異なりゲートを必ずしも利用できるとは限らず、今でも宇宙船を使った物資の輸送は行われている。


「待ってくだせえ二人とも。あっしのダイスター・グループの出番でっせ」


 オドルの保有するダイスター・グループはアウロ3と呼ばれるアンドロイド・アイドルグループをはじめとする機械系アイドルグループの養成、発信を行う総合エンターテインメント関連企業群である。


「またこの展開か。はぁ。別の星でもあったぞ、このやり取り」

「前回はどのように対処したのか気になるところ」

「昔の事なんて忘れましたぜ~」

「つい、二週間前の話だ。二人とも忘れるな」


 経済活性化のため、身内の会社を誘致するというのは(事業が成功すれば)効果的な話である。


「その時は仮想空間上で戦い、生き残った者が権利を得るという方向で収まった」

「では、その方向でよかろう」

「……その試合、勝者はいなかった。ドローだ。結局、執行官殿の許可を頂いて三人全員の会社が認可された」

「そうでしたっけ~」

「オオバク殿、もしよろしければご希望の会社や産業はありますか?」


 ここでアラルナッドはまた仮想空間での試合という、めんどくさい過程を飛ばすため、ナヌルウェに直接、聞いてみることにした。


「あの、御三方がよろしければ皆さまの力をお借りしたいと」

「ありがとうございます」

「うむ。分かった」

「我ら三貴族、いかなる時も一緒ですぜ~」


 アラルナッド達は詳しい話合いをするべく、ナヌルウェとともにシタデル・タワーへ向かい歩き始めた。

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