起きて見る悪夢②
――
睡魔に誘惑されれば、抗う
夢の中で、俺は寝ていた。だが夢の中で夢を見る道理もなく、見覚えのあるベッドに体を横たえていただけだ。
いつもの風景。いつもの寝姿。
だがただ一つ、異なっている点がある――俺を見下ろすように、女が
一糸
なにせ、眼鏡をかけていない俺の目に、しかと輪郭が映っていたのだから。窓から差し込む月の光を集めたヴェールを被り、黒く
生活感のある部屋の中で、女だけが異質かつ幻想の存在だった。
「ねえ、やまと」
清い月は、ふしだらに吐息を漏らす。
「――――」
俺は、それを無感動に見つめている。
「わたしはやまとをあいしてる」
清純かつ淫蕩の化身が、
俺は、彼女から逃れられない。逃げても逃げても、きっと追いつかれて捕まえられる。そもそも逃れる気がないのだから、妄想は無意味に堕ちる。
「わたしを
「それは、できない」
「……どうして?」
「その席は、もう埋まってるから」
言い訳に過ぎない。既に空席のそこを、俺は後生大事に保ち続けている。
「ならせめて、」
月の重力は地球の六分の一だと、どこかで聞いたことがある。だが月そのものの重さとなれば、そう軽んじてもいられない。
月の
「やまとを
……ああ、
仮に彼女を受け入れれば、俺は人間ではなくなるだろう。
「やまと、わたしを――」
漠然と確信を得たところで、この悪夢は
「――
最後の台詞は聞かないフリをして、意識は現実へと浮上していった。
月が満ちて欠けゆくように、人の心も移ろうものだ。豊穣の神が死の神と近しくあるように、俺にとっての死が蠱惑的に美しかったという単純な話。
それは誰に話すでもない、無価値で恥ずべき
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