地学部合宿会 第14話
いつもの悪い癖で、中村君の発表を聞き逃し、また、地学部としての石拾いは終わったのに山河内さんから石を返却されることはなかった。単なる拾った石だから、思い入れもなければ無くなったって気にはしないけど、山河内さんでも借りパクのようなことをするんだと、山河内さんに少し嫌気がさしていた。
「大智ー。何して遊ぼうか?」
石拾いを終えて、此花先輩と山本先輩は、此花先輩の祖父らしい人の車に乗って買い出しに走った。だから、僕らは自由行動を言われていた。ただ、遊び道具を前は如月さんが全て用意してくれていたから、僕らは浮き輪もビーチボールも何も持っていなかった。
「乃木先輩のように海に泳いでくれば」
「あそこまでは行けんやろ」
僕らは砂浜の前も後ろも、右も左も、丁度ど真ん中くらいに体育座りで座っているが、乃木先輩は海難事故認定してもいいのではないか、と言うくらい遠くまで泳いでいっていた。目視では頭しか見えていないから、ゴマのように小さくなっていた。
「じゃあ、山河内さんたちに混ざってくれば?」
山河内さんと堺さん、それに大原先輩は、膝下くらいまで海に浸かって水の掛け合いをしていた。
「それはできんやろ」
岡澤君はそう言っていたけど、岡澤君ならできそうだと思った。
「じゃあ、楠木先輩のようにベンチで寝るのは?」
「それはそれで難易度高あないか?」
「石川先輩のように読書は?」
「まず本を持ってきとらんわ」
「じゃあ、もうすることが尽きたね。こうやって休んでおくのもいいんだよ」
「それにしては炎天下の砂浜で休むってどないやねん」
僕も初めは海で遊ぼうか、とは思ってはいたのだ。だけど、山河内さんがいるから遊ぶ気がなくなってしまっただけなのだ。楠木先輩のいるベンチに戻ればいいのかもしれないけど、ここまで歩いて疲れたからここで休んでいるのだ。でも、炎天下の砂浜も、もうそろそろ限界かもしれない。全身が暑い。
少しだけ体を冷やそうか。足先だけなら上の服を脱がなくても大丈夫だけど、もしものことがあるかのしれない。ここは水着になって、足だけ水に浸かりに行こう。
そんなわけで、一人海に足だけ浸かっていると、後ろから水が飛んできた。荒波が岩とかに打ち付けて水が大きく跳ねるのは分かるが、今日は波は穏やかで、ここは砂浜。故意に誰かが、意図的に僕に水をかけている。
「一人で海に入るとかずるいぞ。隙ありや!」
犯人は岡澤君だった。
「暑いから浸かりにきただけだよ!」
と言いつつ、仕返しに両手いっぱいに水を掬って岡澤君にかけ返した。僕の飛ばした水は、予想もしていなかった岡澤君の顔面に盛大にかかった。
「あ、ごめん……」
岡澤君は固まっていた。
肩にワカメらしきもが乗っているのは面白かったが、本人は気づいていないのか無視をしているのか、何もしないからそっとしておいた。
「大智……やりおったな……おらー! 仕返しや!」
岡澤君は波が来たのに合わせて、両手いっぱいに水を掬って僕に向かって飛ばしてきた。今度は不意打ちではなかったから、防御姿勢は取れたものの、水相手に防御姿勢は意味をなしてなく、僕も顔面に海水を浴びてしまった。
「しょっぱ……」
「ふっ。これでおあいこや」
「いや待ってよ。僕は一回。岡澤君は二回だよ。おあいこというのなら、もう一回かけさせてもらってもいいかな」
「いやいや、おあいこって言うんは、顔面にかかった回数のことを言うてんねん。やけん、それは違うねん!」
岡澤君は波と水に足を取られながら、海の中を全力で走っていた。
「あ! 逃げるな! 待てー!」
僕も波と水に足を取られながら、岡澤君を追いかけた。
途中、水をかけてやろうかと思っていたけど、考えているうちに距離を取られて、試しに片手で水を飛ばしてみたけど、岡澤君には届いているのか届いていないのか僕には判断できるものじゃなかった。
砂浜に上がった岡澤君は、中村君を見下ろす形で立ち止まっていた。中村君は砂浜の温かさが心地よかったのかうつ伏せになって眠っていた。
「大智。これ海に落とせへん?」
中村君をこれ扱いとは……めっちゃ面白そうだ。
「岡澤君、どっち持つ?」
「筋力には自信あるけん、頭の方持つわ」
「分かった。じゃあ、僕は足を持つ」
「せーので行くで」
「起こさないようにね」
「ああ、いくで。せーの!」
岡澤君の掛け声に合わせて、僕は眠っている中村君の足を持った。岡澤君と二人で持ち上げた衝撃で、中村君は空中で目を覚ませた。
「は⁉︎ え⁉︎ ちょ、お前ら何してんの⁉︎」
「何って、一緒に遊ぼうとしとるだけやん」
「これのどこが⁉︎ 中田君も持ってないで下ろして!」
中村君は涙目になりながら僕に訴えかけていた。
「中村君……諦めてくれ」
「こんなのいじめと変わらないじゃないか!」
中村君の悲痛の叫びも、岡澤君には届かなかった。
「大智、せーのでいくで!」
「オッケー!」
「待ってって! 一旦落ち着けって!」
「いくぞ! せーの!」
岡澤君の掛け声に合わせて、僕は中村君の足から手を離した。中村君は宙を舞い、僕の顔に届くくらい大きな水飛沫をあげながら、海に落ちていった。
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