旅の計画を 第7話、第8話
「ほんで、中田君はどっち派え? ちなみに俺は堺さん派やで」
「ぼ、僕は……」
ある人の名前を言おうとしていたが、そのある人がこっちに振り返っており、口を固く閉ざした。さっきの話を聞かれてないから心配だったけど、何も言わないようなので多分聞かれてない。
山河内さんと堺さんが足を止めていたのはちょうど図書室の前で、ここの前に止まったあたり図書室で何かあるのだろうか。
「みんな。急だけど、今から少し時間ある? 実は歌恋、友達に部活終わってから図書室に来て欲しいって言われていて……。用事があるなら全然帰ってくれて大丈夫だからね」
僕は乗り気ではなかった。だけど、山河内さんに言われたら断るわけにいかないじゃないか。如月さんが絡んでいるから変なことに巻き込まれそうだけど、断れきれなかった僕は諦めて図書室に入った。
「あ、みなさん遅い時間ですのに呼び出してすみません。実は相談があって呼び出した次第です。立ち話もなんなのでとりあえずみなさん座ってください」
手厚いお出迎えとともに一人の少女が座っている左右四人座れる対面式の机に案内された。先に誰が座っているのかと思えば、同じクラスの相澤さんだった。クラスでは物静かで規律正しそうな雰囲気があったのに、何故か今は自分のリュックサックを抱えながら俯いて何か小言を呟いていた。聞こうと思えど、耳を澄ましてもそれは聞こえず諦めて僕は右側の一番端の席に座った。隣は岡澤君。その隣に中村君。正面は不本意ながら如月さん。相澤さんとは対角線上の一番遠い席になった。
「それで、相談なのですが……」
如月さんがわざと溜めて重たい空気を作るから、妙な緊張感がこの図書室には走っていた。
「地学部と恋愛科学研究会で合同の親睦会を開こうと思っているのですが、みなさんの意見を聞かせてください」
この重たい空気の中誰にも勝るスピードで相澤さんが手を挙げた。
「はい! 一花ちゃんどうぞ!」
「私は親睦会自体を合同でしなくていいと思います!」
「却下します。他に意見はありますか?」
次に手を挙げたのは山河内さんだ。
「あのさ、歌恋。悪いけど、経緯だけ聞かせてくれないかな?」
僕も薄々感じていたけど、相澤さんの一言は間違っていない。わざわざ合同で、しかも一年生だけの親睦会なんて開く必要はないと思う。いくら山河内さんとの恋路の手伝いをしてくれると言っても、ここまであからさまなものは乗り気になれない。如月さんの返答次第では、反対多数の否決になりかねない。
「何となくです!」
「な、何となく?」
この答えを聞いた瞬間僕は終わったと思った。
「はい。何となく交流を持ちたいと思っただけです」
「恋愛科学研究会とは部活内容も全く違うしどうして地学部と一緒にしたいって思ったの?」
「それは簡単ですよ。碧ちゃんに真咲ちゃんがいる地学部と、合同で親睦会を開いたら楽しそうだと思ったからですよ」
根拠に乏しいこの回答に、納得なんてできるわけもなくこの会話は終わると思っていたが、山河内さんが賛成し、それを否定する者は現れなかった。
「合同で親睦会を開くことは決まりましたけど、場所とかどうしますか?」
またして相澤さんが一番に手を挙げた。
「桜堤公園で花見」
「新緑の葉を前に花見ですか? この時期は花は散ってますよ」
相澤さんの意見は呆気なく却下された。
次に手を挙げたのは、こちらもまたの山河内さんだ。
「私は、部活の一環でキャンプとかしたいな! この時期なら人もそんなにいないし結構自由にできると思うな」
泊まりなの? と僕は一人内心で驚いていたけど、その意見に反対する人はいなかった。周りに合わせて頷いた僕を除けば、満場一致でキャンプという案は可決された。
「そろそろいい時間なので後はメッセージでやり取りをしましょう。私がグループを作るのでみなさんの連絡先を教えてください」
みなさんと言いながらも、如月さんの連絡先を知らないのは男子だけだったみたいで岡澤君と中村君が如月さんと連絡先を交換し、この話は終わった。と、思われたが、何故か如月さんは僕にまでも要求をしてきていた。
「中田さんもお願いします」
「ああ、ごめんごめん」
周りの視線を集めているから連絡先を交換するときのようにスマホの画面にQRコードを表示し連絡先を交換したように見せた。
「ありがとうございます。みなさん、グループは作るのでちゃんと加入してくださいね。特に一花ちゃん」
「気が向いたらね」
「ダメです! 今すぐ作るので入ってください」
如月さんに(地学・恋科合同親睦会)と言うグループに誘われ全員が参加し図書室での会議は終了した。
今日だけは如月さんに捕まらず、久しぶりの優雅な帰宅になった。何せ僕以外のメンバーは全員電車組なのだと。しかも、全員北方向で向きも一緒らしい。一人はぶられたような気分だけど、元々一人が好きだから、心に傷ができたというようなことはなかった。寧ろ、世間はこんなにも平和なのだと、改めて再確認することができた。入学早々に事件に巻き込まれ、如月さんというトラブルメーカーと同じクラスになって、この一週間は一年間のイベントを全て集約したくらい忙しかった。如月さんから解放されただけでこんなにも自由が得られるとは思ってもいなかった。
そんな僕は、自由になった記念に寄り道をした。樹や綾人とよく通ったゲームセンターに久しぶりに一人で寄った。お金に余裕があるわけじゃないからクレーンゲームと言うよりかはメダルゲームを時間いっぱいまで遊んだ。
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