出会いの形は最悪だ 第27話、第28話

「昼休み……いや、ほ、放課後までに必ず決めるからそれまで待っててほしい」

 

 如月さんはあからさまに大きなため息を吐いた。

 

「まあ、初めからそう言うと思っていたので午後六時に設定していたのでそれでいいですよ。但し、もう一度言いますけど、午後六時を一秒でも過ぎたらこの話はなかったことですよ。それだけは忘れないでください」

 

 そう言って如月さんは、一人先に教室に入り、昨日の様な大きな声で「おはようございます!」と挨拶をした。対して僕は、静かに教室に入り特に友達もいないので誰にも挨拶することなく自分の席に座った。入学して間もないと言うのに如月さんはもうクラスの中心にいた。それが羨ましいとかそんなことは思わないけど、仲良い友達が他の子とより仲良く話しているのを見てたら、本当に僕が仲良く話していいのか、なんてたまに不安になる。そんなのだから友達が少ないことも自覚はしている。だけど、相手の子も一度しかない人生なのだ。僕よりももっともっと楽しい会話できる奴と過ごす方が楽しいだろ。こんな気怠げで退屈な僕と話しても意味はないだろ。所詮は短期間の仲なのだ。必要以上に親しくする必要はない。将来も同じ仕事に就く確率なんて数パーセント、いや、こんな田舎なら都会に出る人も多いから小数点以下の可能性じゃないかな。だから僕は無理に友達は作りたくない。でも、だからと言って共感性なく過ごすわけではない。表面上はちゃんと仲良く過ごす。樹や綾人の様にプライベートまでも仲良く過ごすのはこの二人だけで十分だ。

 変な妄想をしているうちに、僕の友達。樹と綾人は登校してきた。

 

「大智おはよー。今日はやけに早いんだな。いつもみたく遅くまで寝ていてギリギリになると思っていたよ」

 

 樹はいつもこんなだけど、友達としては悪くないんだよな。

 

「大智おはよう。身体が中学時代でも思い出したの?」

 

「ははっ、そんな感じかな」

 

 あの頃は大変だったからな。毎朝ホームルーム前に三十分の朝部活。そのための早起き。よくぞ三年間耐えた自分よ。でも、それがなかったら今の自分が形成されてなかったから失敗だったわけじゃないんだよな。

 樹と綾人と話す時間は短く、ほんの少しの会話だけで……と言うか、妄想の時間が長すぎて、二人とほとんど会話することなくホームルーム開始のチャイムが学校中に鳴り響いた。

 昼休みになった。が、僕は答えを導き出せていなかった。と言うか、変に妄想しすぎたせいですっかり返事のことを忘れていた。思い出したのは本当に今さっき……。ど、どうしよう。 選択肢はたったの二択なのにその二択が決めきれない。ただ、今は昼休みだ。妄想に浸る時間は裕にある。ここは得意な妄想で先のことを考えてみるか。まずは、如月さんの問いに僕が否定した場合。ありとあらゆる文句が飛んできて僕は心を病みそうな。そんな未来しか想像できない。次に、如月さんの問いに僕が肯定した場合。あの如月さんのことだ僕と山河内をあらゆる手使って付き合わせようとするはず。厳しいノルマもありそうだ。但し、これに関しては僕には利益しかない。僕が一番恐れていることはそこだ。如月さんには何の徳があって僕と山河内さんをくっ付けようとしているのか。そもそも僕は本当に山河内さんを好きなわけではない。確かに山河内さんは可愛いし、優しい。あんな子を好きにならない人はいないと思う。だけど、僕には全く釣り合わないことぐらい自分が一番知っている。いや逆か。山河内さんの隣に僕が似合わないか。山河内さんも僕みたいな根暗を好きなわけない。勝負は初めから決まっている。告白したところで一言で振られるに決まっている。それなのに如月さんは山河内さんとの恋愛を手助けすると。本当何がしたいのか。ここは一つ訊いてみないことには何も解決しない。

 

「き、如月さん……」

 

 僕の蚊の鳴くような声は、周りの声にかき消され如月さんには届かなかった。でも僕は諦めたわけではない。同じ教室にいるとは言え僕らは現代人。文明の力を無駄にはしない。如月さんにどうしてそこまでしてくれるのかメッセージを送った。その返信は早かった。だけど、答えが返ってきたわけではない。


(話があるのでしたら次の休み時間に体育館前の自動販売機の前まで来てください)

 

 僕一人が自動販売機の前に行くのは難しくない。だけど、如月さんは休み時間になる度に、誰かと話しているのに一人になんてなれるのか。誰かと一緒なんて本当にごめんだぞ。

 そんなん僕の不安とは裏腹に、如月さんは一人で自販機の前までやって来た。

 

「そんな不思議な顔をしなくても私だって一人になりたい時ぐらいありますよ。言い訳はいくらでもできますから」

 

 そこまで顔に出していないつもりだったけど、一体僕はどんな顔をしていたのだろう。でも今はそんなことはどうでもいい。僕は如月さんに訊きたいことがあるのだ。

 

「ずっと疑問に思っていた。如月さん……君が“初めて”会ったばかりの僕にそこまで肩入れする理由は何なの? 確かに、僕の恋の手伝いをしてくれるのなら本当にありがたいことだよ。でも、如月さんがそこまでする必要はないはず……」

 

 僕が話している最中だと言うのに如月さんは、僕の声をかき消すように力のこもった声で反論した。

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