出会いの形は最悪だ 第19話、第20話

「それは大変でしたね」

 

 この嫌味にのってくるのか。如月さんは本当によくわからない人だ。

 

「ああ、大変だった。どれだけ弁明してもことごとく論破されたよ」

 

「それはとんだ悪夢ですね。お祓いでも行った方がいいのではないですか?」

 

 何故急に宗教勧誘のような言葉を使う。それに、夢のことなら獏が普通じゃないのか。

 如月さんの言葉に返答をすることなく僕は先に青に変わった歩行者信号を正面に横断歩道を渡った。

 

「と言うか、それは昨日の出来事ですね!」

 

 こんな朝っぱらからよくそんな大声が出るよ。

 振り返ると如月さんとは少し距離があった。僕が何も言わないから、如月さんは少しおかしな子のような目で周りから見られていた。関わりがあると思われたくないからさっさと行ってしまおうと、歩くスピードを少し早めた。

 

「よう、大智。さっき、如月さんと話してなかったか? もう女子と仲良くなったのかよ。どうしたらそんなに早く女子と仲良くなれるんだよ」

 

 こっちはこっちで別のうるさいのに捕まってしまった。

 

「別に仲良くなったわけじゃないよ。話しかけられただけだから」

 

 これが事実なのだが、今回だけは樹は信じなかった。

 

「嘘だ。あんな仲良く話をしていて、仲良くなってないなんて絶対に嘘だ。如月さんにも訊いて同じことを言ったら信じるよ」

 

 これはまたまずい展開になった。如月さんが余計なことを言わなければいいけど、余計なことを言わない確証はない。と言うか、僕の中ではほぼ確実に余計なことを言うと思う。また、樹を騙す手段を考えないといけないのか。

 朝の脳活動は著しく低く、思いついた作戦は一つだった。

 

「樹、これをよく見ろ!」

 

 僕は樹にスマホの画面を見せた。

 

「俺の友達リストに如月さんの記載はないだろ? 仲良くなっているならここにいなければおかしいだろ」

 

「た、確かに……。なんだ、やっぱりただのクラスメイトだよな。大智に女友達ができたのかと思ったよ」

 

 樹を騙すのはとても簡単だ。だけどなんだろうこの負けた時のようなイライラ感は。そんなイライラした感情を抱えていたが、ある出来事でそのイライラした感情は、焦りへと上書きされた。

 

「おはようございます。佐古さん。佐古さんは本当に中田さんと仲良しなんですね」

 

 何があったかと言うと、靴箱を越えたその先で、如月さんにも待ち伏せされていたのだ。

 

「お、おはよう。き、如月さん……きょ、今日はいい天気だね」

 

「今日は曇っているぞ」

 

 樹には僕の言葉は届かなかった。

 

「気持ちが晴れやかでしたら天気も晴れですよ。まあ、晩年曇り空の中田さんには分からないと思いますが」


 ひどい言われようだけど、反論する気はなかった。何故かと言うと、捉え方によっては確かに僕の気持ちは晩年曇り空だから。それと、言っている意味が本気で分からなくてシンプルに引いた。

 

「朝から如月さんと話ができるなんて、今日はもういい一日だよ」

 

「それはよかったです。誰かのお役に立てるのは私の生き甲斐ですので」

 

 この二人の会話に僕は混ざることはできなかった。あれから教室に着くまで僕は一言も話さなかった。

 教室の中に入ると、如月さんは第一声大きな声で「おはようございます!」と挨拶をした。樹は、平然としていたが僕は鼓膜が裂けるかと思った。昨日は一人すべったような如月さんだったが、今日は座っている人、立って話をしている人その各々が、如月さんの挨拶に反応していた。僕はそれに混ざることなく自分の席に座った。この輪の中に混ざるのが人として正解なんだろうけど、僕はそれが苦手だ。でも、逃げているわけではない。仲良くなるにはまだ早いとそう思うから、もう少し周りを様子見。フレンドリーは側から見たら楽しそうだけど、実際は友達が増えるたびに問題も増えるものだ。だから、僕は意図的に友達を増やしていない。将来も変わらず友達なのは所詮ほんの数人だろうしな。同窓会で友達だったと話しかけられて誰だろう問題を起こしたら、僕も気まずいし相手も傷つける。確実な友達関係を築くのが最適解だと僕は考える。

 

 変な考え事をしているうちに呆気なく一日は終わった。授業が終わった今、僕の選択には二択。帰るか部活に行くか。入学早々の僕には帰るの一択だったのだが、昨日のこともある。山河内さんに会えるなら部活に行く価値はあると思う。ただ、まだ体験期間だし、山河内さんが地学部に確実に入るわけではない。それでも、可能性が少しでもあるなら行ってもいいかもしれない。

 悩みに悩んだ末、僕は地学部に行った。だけど、山河内さんの姿はそこにはなかった。それに、昨日に比べて明らかに人が減っている。昨日は、教室の半分程度まで席を埋めていたが、前二列が精一杯というところだった。どこの部活も部員の争奪戦を繰り広げているが、この部活は顕著に減りすぎだろ。この様子ならば新入生は一桁というところか。まあ、先輩方も全員合わせて六人だから、そもそも入る人が少ないんだな。

 と言うことは、山河内さんがこの部活に入る可能性も低いと言うことか? 如月さんならそんな話も知ってそうだけど、訊く勇気なんてものは起きない。だって、あの如月さんだ。変に揶揄うに違いない。まあ、初めから山河内さんを目当てに地学部に来たわけじゃないから、別に何でもいいけど。

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