出会いの形は最悪だ 第3話、第4話

 楽しい会話も鳴り響くチャイムが終わりを告げ、クラスのほぼ全員が自分の席へと座った。全員の視線が黒板に向いている最中、扉が開き教師でも入ってくるのかと思いきや、真っ赤なリュックサックを背負った小さく可憐な少女が入って来た。その少女は教室に入るなり廊下にも響くような大きな声で挨拶をした。

 

「おっはようございまーす! みなさんこれからよろしくお願いします!」

 

 クラスの反応は想像つくだろうけど、まあみんな静まり返っていた。その空気を感じて本人も気付いたようで、自分の席を確認し静かに席に座った。少し離れた僕の席からでも落ち込んでいる様子がよく分かった。知っている人間なら、「すべっていたね」なんて揶揄うことをできるけど、見ず知らずの人間にそれはできない。

 そんな静まり返った空気を、見事笑いに変えた人物が救世主のごとく現れた。

 

「ふふっ。君ってすごく面白いね」

 

 そう言って席から立ち上がり、すべった少女の隣まで歩いていた。彼女が笑ったことによって、みんな笑っていいんだというような空気になり、静かな空気は次第に笑いに包まれていた。すべった少女の周りにも二人三人と人が集まり賑やかになっていた。

 

「私、堺真咲って言います。取り敢えず一年間よろしくね」

 

 女子の中では少し背の高い、黒髪ロングの清楚可憐な救世主の彼女はそう名乗った。

 

「き、如月歌恋と言います。こちらこそよろしくお願いします。それと、助けてくれてありがとうございます」

 

 対してすべった少女は如月と名乗った。二人は軽く握手を交わして和気藹々と話を続けていた。時間が過ぎるにつれ集まった人たちはだんだんとはけていき、本鈴がなる直前になると全員が自分の席に座っていた。楽しい会話をしていたはずなのに、すべった少女の背中は変わらず落ち込んでいる様子だった。二回目のチャイムと共に、体育が専門ですよと服装で物語っている筋肉質で強面な教師が入ってきた。

 

「うちのクラスは初めましてなのに賑やかだなあ。そんなことよりも、ホームルームを始めるぞ。て言っても、この後すぐ対面式だから簡単にしかしないからな。分からないことがあったら何でも聞いてくれ」

 

 その後は、入学式でもらった栞に書いてある通り黒板に今日は何をするかを書いて終わり。程なくしてチャイムが鳴り響き、教師の指示で廊下に並んだ。僕らのクラスは四組だから前に三組の人たちが並んでいて、その後ろに続くように二列で並んだ。

 並び始めて五分くらい経ったが、三組は動く気配はない。原因は大抵想像つく。どうせ、体育館の用意が整っていない、そんなところだろう。 そんなことなら、もう少し椅子に座らせてくれてもよかったのに。中学卒業してから、一度たりとも運動をしていない僕にとって、立ち続けることは酷でしかない。それと、周りの人間を誰一人として知らない。話なせる雰囲気ではないけど、静かすぎる空気感に耐えられそうにない。

 そうやって、頭の中で文句を言っているうちに体育館の準備は整ったのか三組の列が前へ進み始めた。四組の僕らもその後に続くように前へ進んだ。

 ただの対面式なのに、なぜか体育館に近づくにつれて、心臓の音が大きく鳴っていた。周りの人に気付かれないように、小さく深呼吸をしたが、そう簡単に収まるものではなかった。幸いにも体育館に入る前に集団が停止して、息を整える時間ができたから、小さな深呼吸を気付かれないようにたくさん行った。一時は収まっていたけど、集団が再び動き出すと心臓の音はうるさく僕の胸で響いていた。ただの対面式。ただの対面式だ。と、頭の中で言い聞かせていても、何も変わらなかった。だからもう諦めて、爆音の心臓を抱えながら誘導された席へと座った。一組から六組までの新入生が全員座ったところで、司会者である生徒会長が話し始めるが、僕にはその話を聞く余裕なんてものはなかった。爆音の心臓がどうしても鳴り止まなくて、最終手段である目を瞑って鼻だけで深呼吸をしていた。

 そんな、意識が別のところに向いていた僕でさえ、目を見開いて脳裏に焼き付けたくなるような透き通った声で、スピーチを行っていた一人の少女がいた。その少女は、品行方正、容姿端麗、そんな言葉が似合う雰囲気で、真っ直ぐ前を向くその視線には、かっこよささえも覚えた。でも、会ったこともないのに、どこか見覚えのある顔だった。さっきまで必死に心臓の音を抑えようとしていた僕だったが、心臓の音よりもスピーチをしている少女のことで頭がいっぱいだった。スピーチが終盤に差し掛かったところで、考えることを一旦止めてスピーチに耳を傾けた。

 何でそんなことをするかって? そんなの決まっている。彼女の名前を知るためだ。こうゆう新入生代表の挨拶は大抵最後に名前を読み上げる。それを聞き逃すわけにはいかないからね。それと一つ言っておく、決してやましいことを考えているのではなく、名前を聞けばもしかしたら思い出すかもしれないからね。そう決してやましいことではない。

 

「……以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。新入生代表、山河内碧」

 

 周りを見渡せばちらほらと、前のめりで口が開いている男子がいた。喝采の拍手の傍ら彼女の名前を脳内リピートさせた男子生徒は、僕以外にも多くいたようだ。

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