地獄の沙汰も君次第
@Marks_Lee
除幕
「……今なんと?」
とある雑居ビルの一室、俺はいまそこで面接を受けている。俺は種田柿彦。去年まで大学生だったが今はフリーターだ。
大学院に進学するという案もあったが、そこまで深く物事に関わるつもりもなく、将来なんかもそこまで深く考えてなかったので、なんとなく就職しなんとなく平凡なる人生が送れればいいな、と漠然と考えていた。
そんな考えなしに世間は甘くなく、回りの人間との隙間がどんどん広く感じながらもマイペースに就職活動をした。 結果、周りが内定が決まり浮かれきってる中就職出来ず卒業を迎えてしまった……
さすがにこうなると焦ってくるわけでしのごの言わずあらためて求人情報サイトに登録しサイト内をサーフィンしているととある求人を見つけてしまった。
“求人 事務業務 人と関わる仕事 福利厚生充実 手取歩合制(応相談)(`・ω・´)”
なんだこの求人。あきらかに地雷としか思えん。しかし事務業務か‥たしか資格はいくつか持ってるが人と関わるなんて事書いている時点で地雷臭い。おそらく窓口業務みたいなものだろうと思うが、手取歩合制(応相談)の部分が気になってしまう。しかしその時、俺は現状に焦っていたので思わずヤケクソになって面接の予約を取り繕ってしまった。
◇◇◇
「業務内容の確認ですが、あなたには地獄で亡者の裁判官をしてもらいます」
この人は何を言ってるんだろうか?脳が処理を追いつかない俺を差し置いて面接担当者 -佐藤- が畳み掛けるように説明を始めた。
「現在地獄では、亡者の審問がとても滞っている状態です。現世でよくある定期的な伝染病や争いなどがいい例なのですが、それらが現世で起こった際裁判が滞ることがたまにあるんです。そうなると問題が出てきまして…審問できる裁判官の数が圧倒的に足りない。ですので現世から生きている人間を裁判官として引っ張ってこようという結論になりました。なにかご質問はありますか?」
いつくか聞きたいことはあるが今頭に浮かんだのはなぜ求人情報サイトに求人をだしたか、だ。あれはそういうオカルト系ではなく一般求人だったぞ。
「あぁそこですか。あれはこちらが求める相応の能力がない人にしか見えないようにしてあるんですよ。まぁ、地獄の七不思議みたいなものと考えてください」
そういうものなんだろうか‥‥まぁ明らかに怪しい求人に食いついてしまったこちらにも非があるといえばそうか。
はやくこの面接を終わらせてお祈りしてもらうとしよう。
そう思うと求人のわからないところを聞いておくのはいい話のネタになりそうだ。考えるとあのおかしい求人募集は何なのだろうか?
「あの求人ですか?私が書いたのですが何か不備でもありましたか?上司に見せたところ快諾されたのでそのまま載せました」
地獄にも上司っているのか……あれで快諾だと色々思い遣られる……
「地獄といっても会社構造は、地上の一般企業とほぼ変わりませんよ。業務内容が違うだけで、上司もいますし会議などもあります。まぁ月に一度ぐらいの頻度ですが。あぁ、あと就業時間は9〜5時、休憩に関しては昼休憩に1時間、後は個人に任せてあります。なので時給制ではなく完全歩合制をとってあります」
思った以上にちゃんとしてるんだな。地獄というからブラック企業なのかと思っていたが。
「地上のブラック企業のほうが異常なんですよ?過剰労働は見るまでもなく効率が悪いですし、もしこちらで採用した場合労働組合から非難轟々になるのは目に見えてます。
それで亡者の審問ができなくなるなんて、言語道断です」
あれ?これ地上より地獄のほうが環境いいんじゃ?地獄といってもそこらの企業より待遇良さそうだしいいかもしれない。
「ちなみに衣食住は保障されてます。これらは地獄では最低限の保障なのですが地上よりましだと思われますが…で、どうされますか?お祈りしてほしいですか?」
「よろしくお願いいたしまする」
「そうですか。ではこちらにサインを。あぁ、宅急便の受け取りぐらいのサインで大丈夫ですので」
タブレットの画面にサインを書き親指の拇印を登録するとこれで契約は終了らしい。
「ではあらためて、よろしくお願いしますね。種田さん」
こうして俺の地獄での就職が決まってしまったのだった。
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