第六話 VS黒月

月明かりが俺を薄く照らしてくれる。

森の入り口はまだ緑が濃くない。

中に入れば、暗闇になるだろう。

頼れるのは自身の力だけだ。

一歩、森に足を踏み入れる。

全身が震える。武者震いだ。

待っていろ黒月。俺が討伐してやる。

歩くこと数分。夜目が効くようになり、周囲がよく見える。

痕跡は見当たらない。まだ奥の方に潜んでいるのだろうか。

なんて考えていると、風に乗ってきた、血の匂いがした。

それは、森の中心からだった。

「奴」は向こうにいる。

血の匂いを辿りながら、森の中を歩いていく。

まだ、姿は見えない。しかし、強い気配を感じる。

恐らく近くにいる。警戒をしながら、前へと進む。

少し歩くと、人の形をしたものが目に入った。

近づいてみると、体が大きく抉れていた。それにまだ、熱を持っている。

違う。これは穴だ。何か鋭いものが、貫通している。

辺りには、銀の毛が落ちている。

黒月がこの辺りに居る。

刹那、全身に衝撃が走る。

「グハッ!」

咄嗟に、魔法空間から、大剣を取り出し、受け流したが、

数メートル先まで飛ばされ、大木にぶつかり止まった。

視界が霞んでいる。集中しなければ。

息を吐いて、攻撃に備える。

ザッ、ザッと先程とは打って変わり、足音がする。

舐められているのか。攻撃態勢に入ったのか。

どちらでもいい。俺の目的はこいつを殺すこと。

それだけだ。警戒をしていると、突如、目の前が揺れた。

そして、黒月が姿を現した。情報通りの見た目だった。

しかし、違っているところがあった。毛の色だ。

銀ではなく、黒色をしていた。擬態の能力でもあるのか?

「キイイイィィーーン!!」

考えていると、耳をふさぎたくなるような咆哮が聞こえた。

金属の板を鋭いもので引っ搔いたような不快な音だ。

咆哮に顔をしかめていると、奴が突進をしてきた。

俺は身を翻し、攻撃を避け、反撃をする。

ガキン!硬いものにものが当たった時の音がした。

まさかと思って毛を見ると、銀色に変化していた。

そういうことか。状況によって毛を変えるのか。

今分かっているのは、黒が通常で、銀が硬化している。

どうすれば、ダメージを与えられる?何か弱点は?

暗い森の中を疾走する黒月を、観察する。

観察している最中に何回か攻撃をされたが、

問題は無かった。そして、体毛が無い箇所も確認することが出来た。

毛の色は二種類しかないこと。

そして、アイツの最大の武器の角が弱点だ。

角、というよりは顔の周りだ。そこだけは毛が生えていない。

狙うところは決まった。

だが、どうやってそこに攻撃をする?

避ければ、当てることはできない。

考えるのは面倒くさいな。

突進を受け止めよう。

そして、もう一本の剣で脳天を突き刺そう。

息を一気に吐き、集中をする。失敗すれば死ぬ。

それでもいい。ここで死ぬのであれば、俺はそこまでの人間だったてことだ。

覚悟を決めたとき、黒月が突進をしてきた。

時間の流れが遅く感じる。

アイツの体の動きが分かる。

全身に力を入れて、受け止める準備をする。

さぁ、来い。殺してやる。

ドオオオォォォンンッ!!

とてつもない衝撃に、剣が、地面が、森が悲鳴を上げる。

すまん。もう少しだけ耐えてくれ。

地面が大きく抉れていく。

木々が薙ぎ倒されていく。

俺の愛剣にヒビが入っていく。

限界だ。そう思った時に、黒月が止まった。

ありがとう。魔法空間から、剣を取り出し、脳天に突き刺す。

黒月は声を上げず、その場に倒れ込んで、死んだ。

俺は、勝ったのだ。

死線を潜り抜けたのだ。

俺は、死体を魔法空間に入れる。

安堵して上を見る。

木が倒れたおかげなのだろうか。

月が俺を祝福するように照らしてくれる。

俺は少しは強くなったのだろうか。

明るくなった道なき道を歩き、街を目指す。

月はいつの間にか隠れていた。

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