浅葱色とだんだらと翠色と
浅葱郁羽
第0話 プロローグ
「行ってきまーす!!」
私は、風呂敷を握りしめて、家の扉を開けた。
私の名前は、
私の両親は、料理屋「三山亭」を営んでいます。町でも、うちのお料理は美味しいとかなりの評判で、毎日大忙し!普段は、私も将来料理屋を継ぐ身として、お店の手伝いや、お料理の修行をしているけれど、今日は訳あって隣町の
隣町に出るのは久しぶりで、とても楽しみ!!おつかいのご褒美として、お母様にお菓子を買ってもいいと言われたし。
私は手の平に、お母様から貰った十文(現在でいうと約三百三十円ぐらい)を出す。
「ふふふっ」
私は歩きながら、無意識の内に口が緩む。
「うわっ、何ヘラヘラしながら歩いてんだ。」
後ろから聞き慣れた声がして、振り返る。
「何よ、弥十郎。別に私が何してたっていいでしょ。」
振り返れば、そこには刀を腰に差した一人の男の子が、腕を組んで立っていた。
そう、彼の名前は
私の料理屋のお隣にある、柴崎道場の四兄弟の末っ子です。
「あのなぁ、そうやってヘラヘラ周りも見ずに歩いてたら、誰かにぶつかるぞ?」
弥十郎は、「はぁ。」とため息をつく。
「べ、別に、今まで一度もぶつかったことないわよ!弥十郎こそ、逆に周りのこと見すぎて変にぶつかるわよ!」
私はプイッと、顔を弥十郎から逸らす。
弥十郎は、いわゆる幼なじみ。小さい頃から、よく一緒に柴崎道場で、道場の剣術仲間と剣術をしたりして遊んでいました。
あの頃はまだ、弥十郎もひねくれていなくて、素直な子だったのに...。
「ん?何だよ、俺に不満あり気なその顔は。」
弥十郎こそ、私に不満あり気な顔で、私を見てくるわ。
「まあ、いいわよ。私ちょっとこれから、隣町まで用があるの。だから行くわね。」
私は、弥十郎に背を向けて、手を振りながら歩き出す。
「お、おい!」
そんな私を、弥十郎は大きな声で呼び止めた。
「何?」
私は振り返って、首を傾げる。弥十郎のこんなに大きな声を聞いたのは、どこか久しぶりな気がする。
「あ、えと…、またうちの道場来いよな!剣術仲間も、スイに会いたがってるし、兄上たちも…。」
彼は、腰に差している刀の鍔の部分を、ぎゅっと左手で握ってそう言った。
弥十郎は、緊張しながらそう言ってくれたのだろうか。
長い間、一緒にいれば分かる。本人は気づいていないのだろうけど、弥十郎は、緊張したり、怖がったりしていると、刀の鍔を左手で握りしめる癖がある。
確かに近頃、料理屋が忙しくて、道場に顔を出せていなかったな。
「でも、今は料理屋も忙しくて、私も…」
以前もこうして、弥十郎の誘いを断った事があった。その時の弥十郎は、とても悲しそうな顔をしていた…気が、する…。
けれど、休憩として少し遊んでみてもいいかな…?
「ううん、分かった。行く!今度、行くね!!ありがとう、弥十郎!!」
私が笑顔で言うと、弥十郎も嬉しそうに笑った。
――――――――――――――――――――――――――
「んー!串団子、美味しかったぁ~!!」
私は背伸びをしながら、のんびりとした足取りで帰路に着く。
あっという間に夕方になってしまった。
やっぱり、隣町の米問屋は遠かったなあ。早く島田さんのところの米問屋さんが、元気になってくれるといいのだけれど…。
訳あってというのは、私達がいつもお米を頂いているところの米問屋のご主人が、病気になって少しの間床に伏せているからだったんです。
だけど、ちゃんとお米も頂いたし、あとは料理屋に帰って、お父様とお母様のお手伝いをして、っと。
私が風呂敷をギュッと握りしめたその時、
ドンッ
「きゃっ!」
後ろから走ってきた誰かにぶつかって、私は地面に尻もちをつく。
「すみませ…」
「ありゃ!スイちゃんじゃないか!!探してたんだよ!!」
「宮川さん!」
私が謝ろうとするのを遮って、ご近所に住む宮川さんが声をかけてきた。
「こりゃすまんね、スイちゃん。」
宮川さんは申し訳なさそうに、私に手を合わせる。そして、尻もちをついたままの私に手を差し伸べてくれる。
「いえいえそんな!ありがとうございます。あの、ところで、どうしてそんな急いでるんですか?」
私は宮川さんに引っ張り上げてもらいながら、そう尋ねる。
そうなのだ。私にぶつかった時、宮川さんはひどく急いでいた。
「あぁ!スイちゃん、実は…」
宮川さんから言われた言葉は、信じられないものだった…。
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