浅葱色とだんだらと翠色と

浅葱郁羽

第0話 プロローグ

「行ってきまーす!!」

私は、風呂敷を握りしめて、家の扉を開けた。

私の名前は、三山翠みやま すい。年齢は、十五歳。

私の両親は、料理屋「三山亭」を営んでいます。町でも、うちのお料理は美味しいとかなりの評判で、毎日大忙し!普段は、私も将来料理屋を継ぐ身として、お店の手伝いや、お料理の修行をしているけれど、今日は訳あって隣町の米問屋こめどいやにおつかいを頼まれました。

隣町に出るのは久しぶりで、とても楽しみ!!おつかいのご褒美として、お母様にお菓子を買ってもいいと言われたし。

私は手の平に、お母様から貰った十文(現在でいうと約三百三十円ぐらい)を出す。

「ふふふっ」

私は歩きながら、無意識の内に口が緩む。

「うわっ、何ヘラヘラしながら歩いてんだ。」

後ろから聞き慣れた声がして、振り返る。

「何よ、弥十郎。別に私が何してたっていいでしょ。」

振り返れば、そこには刀を腰に差した一人の男の子が、腕を組んで立っていた。

そう、彼の名前は柴崎弥十郎しばさき やじゅうろう。私より一つ年上の十六歳。

私の料理屋のお隣にある、柴崎道場の四兄弟の末っ子です。

「あのなぁ、そうやってヘラヘラ周りも見ずに歩いてたら、誰かにぶつかるぞ?」

弥十郎は、「はぁ。」とため息をつく。

「べ、別に、今まで一度もぶつかったことないわよ!弥十郎こそ、逆に周りのこと見すぎて変にぶつかるわよ!」

私はプイッと、顔を弥十郎から逸らす。

弥十郎は、いわゆる幼なじみ。小さい頃から、よく一緒に柴崎道場で、道場の剣術仲間と剣術をしたりして遊んでいました。

あの頃はまだ、弥十郎もひねくれていなくて、素直な子だったのに...。

「ん?何だよ、俺に不満あり気なその顔は。」

弥十郎こそ、私に不満あり気な顔で、私を見てくるわ。

「まあ、いいわよ。私ちょっとこれから、隣町まで用があるの。だから行くわね。」

私は、弥十郎に背を向けて、手を振りながら歩き出す。

「お、おい!」

そんな私を、弥十郎は大きな声で呼び止めた。

「何?」

私は振り返って、首を傾げる。弥十郎のこんなに大きな声を聞いたのは、どこか久しぶりな気がする。

「あ、えと…、またうちの道場来いよな!剣術仲間も、スイに会いたがってるし、兄上たちも…。」

彼は、腰に差している刀の鍔の部分を、ぎゅっと左手で握ってそう言った。

弥十郎は、緊張しながらそう言ってくれたのだろうか。

長い間、一緒にいれば分かる。本人は気づいていないのだろうけど、弥十郎は、緊張したり、怖がったりしていると、刀の鍔を左手で握りしめる癖がある。

確かに近頃、料理屋が忙しくて、道場に顔を出せていなかったな。

「でも、今は料理屋も忙しくて、私も…」

以前もこうして、弥十郎の誘いを断った事があった。その時の弥十郎は、とても悲しそうな顔をしていた…気が、する…。

けれど、休憩として少し遊んでみてもいいかな…?

「ううん、分かった。行く!今度、行くね!!ありがとう、弥十郎!!」

私が笑顔で言うと、弥十郎も嬉しそうに笑った。


――――――――――――――――――――――――――


「んー!串団子、美味しかったぁ~!!」

私は背伸びをしながら、のんびりとした足取りで帰路に着く。

あっという間に夕方になってしまった。

やっぱり、隣町の米問屋は遠かったなあ。早く島田さんのところの米問屋さんが、元気になってくれるといいのだけれど…。

訳あってというのは、私達がいつもお米を頂いているところの米問屋のご主人が、病気になって少しの間床に伏せているからだったんです。

だけど、ちゃんとお米も頂いたし、あとは料理屋に帰って、お父様とお母様のお手伝いをして、っと。

私が風呂敷をギュッと握りしめたその時、

ドンッ

「きゃっ!」

後ろから走ってきた誰かにぶつかって、私は地面に尻もちをつく。

「すみませ…」

「ありゃ!スイちゃんじゃないか!!探してたんだよ!!」

「宮川さん!」

私が謝ろうとするのを遮って、ご近所に住む宮川さんが声をかけてきた。

「こりゃすまんね、スイちゃん。」

宮川さんは申し訳なさそうに、私に手を合わせる。そして、尻もちをついたままの私に手を差し伸べてくれる。

「いえいえそんな!ありがとうございます。あの、ところで、どうしてそんな急いでるんですか?」

私は宮川さんに引っ張り上げてもらいながら、そう尋ねる。

そうなのだ。私にぶつかった時、宮川さんはひどく急いでいた。

「あぁ!スイちゃん、実は…」


宮川さんから言われた言葉は、信じられないものだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る