向谷栞は思考する

ツーチ

向谷栞の思考

向谷栞の思考~プロローグ~

 


「今日は体操着はなぜ白いのかを思考します!」

「…………はぁ」



 ったく、まだ根に持ってやがるのか。あれは俺のせいじゃねぇし、つか、こっち睨むなっつーの。教壇きょうだんでキッ、と俺を睨むのはこの思考部の部長である向谷むかいやしおりだ。



 ♦



 ”思考”



 それはどんな意味を持つのだろうか。頭を働かせてその意味を考えてみる。

 ――この行為が思考だ。



 ”人間は考えるあしである” という名言をパスカルがのこすほどに重要だ。

 「葦ってなんだよ?」、「パスカルって誰だよ?」という疑問でさえ思考の一部なのだ。それほどに思考の概念は大きい。



 ちなみに葦とは、大抵の川の土手に生えてるひょろっちい草だ。「人間もそんなひょろっちい葦と同じくらいひょろいけど、思考できるから偉大なんだぜ!」、という意味だ。――褒められてんのかもよう分からん例えだ。



 人間の行動は主に本能行動と理性行動に分けられる。



 熱いヤカンに触れた手が、「あっつぅ!」と咄嗟とっさに離れるのは反射という本能行動。朝起きて何を食べるか考えるというのは理性行動であり、そこには思考が関与している。朝のラッシュで激混急行に乗るか、空いている各駅停車で行くかと迷っているその脳内にも思考は潜んでいる。



 このように思考とは、人間の大抵の選択に介入してくる。 



 だとするのなら、俺は思うんだ。この思考は、莫大なエネルギーを宿しているに違いないって。



 それこそ、そう――。社会を、国を、世界をひっくり返しちまう様な。だってこれは、全ての人の中で無尽蔵に創りだされる、夢のようなエネルギーなのだから。

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