第2話 朝おん
久々に早寝をしたので、6時半に目が覚める。
まだ少し頭痛が残ってる。
頭を振るとサラサラと髪が顔に当たる……ん? 髪? そんなに長髪じゃ……あれ? しかも金髪? まだゲーム『VRMMORPG BulletS』内……じゃないよな?
ギアを頭にかぶってみる……なんかでかい?
んんん? まだ寝ぼけてるみたいだから、とりあえず顔を洗ってトイレに行こうとベッドから起きあがる……あれ? なんか見たことある小さな手……足も小さい。おまけにパジャマもでかい。
なんとな〜く嫌な予感がしたので、鏡を探す……も、独身男の部屋には鏡なんて置いてないから、枕元のスマホで……あれ顔認証できないや。
しかもなにか見慣れない顔が液晶のガラス面に写ってる気が……仕方なくパスコードを入れ、カメラアプリをタップ。モードをフロントに切り替えると、そこにはゲーム内のTHX-1489が映っていた――。
『英明、やばい。今からオレんちに来てくれ!』
電話では声で怪しまれるので、ONLINE-TALKにメッセージを入れる。英明の自宅とは徒歩10分くらいの距離だ。
『なんかあったか?』
『女になった』
『は?』
『だ〜か〜ら〜女になった。ってか、ゲーム内のアバターの姿のままだ』
『朝から何寝ぼけてるんだよ? じゃ、写真送れよ』
自撮り写真を送る――。
『マジか! おまえ、アバターと同じにかわいいな!』
今度はビデオモードで電話がかかってくる。
「そっちか〜い! 他に言うことないんか!」と答えると、『お! 声もゲーム内のまんま、ツンデレ声だな!』
「んなこと言ってないで、助けてくれ〜」
『と言われてもな……』
「とりあえず、女性の服とか持って来てくれないか?」
『そんなの持ってな……あ、アズサ一緒に連れてくから持って行ってやる』
さては英明、昨夜は……ま、いっか。
「助かる! 早くしてくれ!」
なにを急いでるんだか、自分でも何を言ってるのかわからない。ちょっとパニック状態だ。
とりあえず救援が来るまで『朝おん』定番の『ある!ない?』をし、気を紛らわせる……。
いくらゲーム内で女性アバターを使っているとはいえ、なんたって魔法使いになろうって男だから、女性の生身なんて……おおおぉっ――!
――などと時間を忘れてそんなことをシテいると、ドアチャイムが鳴る。
「はぁはぁ……は〜い! ちょっと待って~」
ウエットティッシュで手を拭いてニオイしないかを確認し、パタパタと小走りに玄関へ向かう。
ドアフォンのモニターで、英明とその彼女の秋山アズサ(あきやま あずさ・女)も一緒なのを確認し、ドアチェーンを外す。
「ど、どうぞ〜」と平静を装いビングに案内。
「おう! おおっ、ほんとに女の子になっちまったな〜忍!」
「おじゃましま〜す」とアズサちゃん。
「ってか、秀明ってば何でそんなに冷静なのよ? オレなんてもうパニクってやっと落ち着いたのに!」
「ん〜忍の女の子姿はゲーム内で見慣れてるから違和感がないっていうか……?」
「なんだよそれ〜」
「忍さん赤目金髪で可愛くなっちゃって〜。秀明くんが言ってた通りですね〜。なんか妹みたいです〜」
う〜なんなんだこの二人の落ち着きっぷりは……ま、逆にそっちの方がありがたいかも。
うちら三人は会社の同僚。同じグループで、遊び、飲み仲間でもある。
もっともアズサちゃんは5期下で、ゲームはしない。
「今は着るものなくて自分のシャツ着てるだけだから、スースーして……」
「忍さん、ちょっとストップです~。とりあえず、秀明くんから聞いてるアバターのサイズに合いそうな下着と、当座の服をドソ・キで買ってきました〜」
「恩に着るよ〜。レシートちょうだい、後で払うから」
「いつでもいいですよ〜」
下着は女性ものにしたけど、スカートはイヤだろうということで、トレーナーとジーンズを買ってきてくれた。
「じゃ、さっそく」と着替えようとすると――。
「あ、ここじゃちょっと……寝室いいですか~? 私が着替え手伝いますね~。秀明くんはここで待ってて」
「え?」と英明。
「レディの着替えだから~」とアズサちゃん。
「レディねぇ……」と英明。
「身体のサイズは英明から聞いたの?」
「はい~身長148センチ、足のサイズは23センチ。体重45キロで見た目15か16歳くらいで……バスト72センチ、ウェスト60センチ。ヒップ75センチ……」
「うわっ、細かっ! 英明め〜」
「あ、でもカタログ値だって言ってたんですけど~」
「カタログにスリーサイズなんて出てなかったぞ?」
パンツを履こうと手に取る。
「うわ、パンツめっちゃ小っさ! こんなの履けるの?」
「大丈夫ですよ〜」
履こうとしてシャツをまくり上げる……と、
「あ、忍さん……つるぺた……」
「へ? あ、そうか……アバターだから余計なものがないんじゃないかな……」
「でも忍さんっていうか、そのアバター、肌白くて綺麗! 赤目金髪に合ってます〜。これ生身で……アバターのまんまなんですよね、一部除いては……」
「うん、アバターにはなかったけど、あった……」
「……み、見たんですか?」
「う、うん。じ、自分の身体だし……」当然『ある!ない?』をしたことは黙っていた。
「そ、それはそうですけど……」赤面するアズサちゃん。
パンツを履いたら次はブラだ。
「ブラ最初は慣れないと思いますんで、フロントホックにしましたけど……い、意外に慎ましいですね~」
身体に脂肪が無いので盛れないみたいだ。
「う、うん。そうなんだよね……」
なんかアバターだとはいえ、今は自分の身体だからちょっとハズい。
「こ、このアバター高かったんだよ〜。日本円に換算すると、装備含めておよそ2,000万はする」
「そ! そうなんですか?」
「うん、独身だからできる特権かもね。スナイパー特有のレアスキル目的で選んだんだけど、赤目金髪なんて現実世界じゃ目立つよねぇ」
「そ、そうですね〜」
着替えが終わりリ二人でビングに戻ると、「サイズ、ピッタリでした〜。秀明くんって忍さんのアバターをジロジロ見てたのバレバレだね!」とアズサちゃんがニヤニヤしながら秀明を茶化す。
「な、なにを言ってるんだ! 忍のアバターTHX-1489のサイズを伝えただけだぞ!」
「う〜、カタログ値以外のスリーサイズもあってなんかいろいろ細かかったぞ! 釈然としないけど、ありがとな! あ、あとさ、アズサちゃんもう一ついい?」
「何です〜?」
「あのさ、トイレなんだけど……」
「あ〜そうですね〜。じゃ、ついてきますね〜」
急いでトイレに入ってジーンズとパンツを下ろして座ると、我慢していたせいか一気に――な、長い。しかも音が!
「ア、アズサちゃん。なんか音が……」ドアの外のアズサちゃんに声をかける。音、聞かれちゃってるけど〜。
「あはは、まぁ身体的構造が違いますからねぇ〜あ、あと紙を適当に切って重ねてから『当ててじっと』で拭いてくださいね。絶対に擦っちゃだめですよ? そうすると小さなくずが『大事な』ところにくっついちゃって、後が大変ですし膀胱炎とか他の病気の原因になりますから〜」
「ありがと〜アズサちゃん来てくれて良かったぁ〜」
「ふふふっ」
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