第2話 朝おん

『秀明、やばい。今からオレんちに来てくれ!』

 メッセージアプリで、助けを求める。秀明の自宅は、徒歩10分くらいの距離にあるから来てくれるだろう。

『なんかあったか?』

『女の子になった』

『はぁ?』

『だ〜か〜ら〜女の子になった。ってか、ゲーム内のアバターの姿になってる』

『朝からなに寝ぼけてるんだよ? じゃ、写真送れよ』

 自撮り写真を送る――

『マジか! おまえ、アバターと同じに美少女だな!』

 今度はビデオモードで電話がかかってくる。

「そっちか〜い! 他に言うことないのかよ! まあ、美少女なのは確かだけど……」と答えると、

『お! 声もゲーム内のまんま、ツンデレ声だな!』

「んなこと言ってないで、助けてくれ!」

『と言われてもな……』

「とりあえず、女性ものの服とか持って来てくれないか?」

『そんなの持ってな……あ、梓連れてくから待ってろ!』

 さては秀明、昨夜は……ま、いっか。

「助かる! 早くしてくれ!」

 なにを急いでるんだか、自分でもなにを言っなにてるのかわからない。ちょっとパニック状態だ。

 とりあえず救援が来るまで、朝おん定番の『ある!ない?』をし、気を紛らわせる……。

 いくらゲーム内で女性アバターを使っているとはいえ、なんたって魔法使いになろうって男だから、女の子の生身なんて……おおおぉっ――!


 ――などと時間を忘れてそんなことをシテいると、ドアチャイムが鳴る。

「はぁはぁ……は〜い! ちょっと待って~」

 ウエットティッシュで手を拭いてニオイしないかを確認し、パタパタと小走りに玄関へ。

 ドアフォンのモニターで、秀明とその恋人の秋山梓(あきやま あずさ・女)も一緒なのを確認し、ドアチェーンを外す。

「ど、どうぞ〜」と平静を装い、リビングに上がってもらう。


「おおっ、本当に女子になっちまったな〜、忍!」

「おじゃましま〜す……あ〜女の子ですね〜」と梓ちゃん。

「2人とも、なんでそんなに冷静なのよ? オレなんてもうパニック状態で、さっきやっと落ち着いたのに!」

「ん〜、忍の女子姿、ゲーム内で見慣れてるから違和感がないっていうか……?」

「なんだよ、それ〜!」

「忍さん、金髪に赤い目で可愛くなっちゃって〜 秀明くんが言ってた通りですね〜 なんか妹みたいです〜」

 う〜ん、なんなんだ、この2人の落ち着きっぷりは。ま、逆にその方がありがたいけど……。


 秀明と梓ちゃんは会社の同僚。同じグループで、遊び、飲み仲間でもある。

 梓ちゃんは5期下で、ゲームはしない。

「今は着るものなくて自分のシャツ着てるだけだから、スースーして……」

「忍さん、ちょっとストップです~ とりあえず、秀明くんから聞いてるアバターのサイズに合いそうな下着と、当座の服をドソ・キで買ってきました〜」

「恩に着るよ〜 レシートちょうだい、あとで払うから」

「いつでもいいですよ〜」

 下着は女性ものにしたけど、スカートは嫌だろうということで、スウェットとジーンズを買ってきてくれた。

「じゃ、さっそく……」

 着替えようとすると――

「あ、ここじゃちょっと。寝室いいですか~? 私が着替え手伝いますね~ 秀明くんはここで待ってて」

「え?」と秀明。

「レディの着替えだから~」と梓ちゃん。

「レディねぇ……」と秀明。


「身体のサイズ、秀明から聞いたの?」

「はい~ 身長148センチ、足の大きさは22。体重45キロ、バストサイズはA70。ウエスト60、ヒップ75……見た目は15、6歳くらいで〜」

「ちょいちょいちょい〜! 細かすぎっ! 秀明め〜」

「でも、アバターのカタログ値だって言ってたんですけど~?」

「カタログにスリーサイズなんて載ってなかったぞ?」

「そうなんですか〜? 秀明くんったらいやらし〜」


 とりあえずパンツを履こうと手に取る。

「うわ、パンツめっちゃ小っさ! こんなの履けるの?」

「大丈夫ですよ〜」

 履こうとしてシャツをまくり上げる……と、

「あ、忍さん……つるぺた……」

「へ? あ、そうか……アバターだから余計なものがないんじゃないかな……」

「でも忍さんっていうか、そのアバター、肌白くて綺麗! 金髪赤眼に合ってます〜 これ生身で……アバターのまんまなんですよね、一部除いては……」

「うん、アバターにはなかったけど、あった……」

「……み、見たんですか?」

「う、うん。じ、自分の身体だし……」当然、『ある!ない?」をしたことは黙っていた。

「そ、それはそうですけど……」赤面する梓ちゃん。


 パンツを履いたら次はブラだ。

「ブラは最初慣れないと思ったんで、フロントホックにしましたけど……やっぱりつつましいですね~」

 しかも身体に脂肪が無いので、胸はあんまり盛れないみたいだ。

「う、うん。そうなんだよね……」

 なんかアバターだとはいえ、今は自分の身体だからちょっとハズい。

「こ、このアバター高かったんだよ〜 日本円に換算すると、装備含めておよそ2千万円はする」

「そ! そうなんですか?」

「うん、独身だからできる特権かもね。スナイパー特有のレアスキル目的で選んだんだけど、金髪赤眼なんて現実世界じゃ目立つよねぇ」

「そ、そうですね〜」


 着替えが終わりリ2人でビングに戻ると、「サイズ、ピッタリでした〜 秀明くんって、忍さんのアバターをジロジロ見てたのバレバレだね!」と梓ちゃんがニヤニヤしながら秀明を茶化す。

「な、なにを言ってるんだ! 忍のアバターTHX-1489のサイズを伝えただけだぞ!」

「う〜、カタログ値以外のスリーサイズもあってなんかいろいろ細かかったぞ! 釈然としないけど、ありがとな! あ、あとさ、梓ちゃんもうひとついい?」

「なんですか〜?」

「あのさ、トイレなんだけど……」

「あ〜そうですね〜 じゃ、ついてきますね〜」

 急いでトイレに入ってジーンズとパンツを下ろして座ると、我慢していたせいか一気に――な、長い。しかも音が!

「あ、梓ちゃん。なんか音が……」ドアの外の梓ちゃんに声をかける。音、聞かれちゃってるけど〜

「あはは、まぁ身体的構造が違いますからねぇ〜 あ、あと紙を適当に切って重ねてから、当ててじっとして拭いてくださいね〜 絶対にこすっちゃだめですよ? そうすると小さなくずが、大事なところにくっついちゃってあとが大変ですし、膀胱炎とか他の病気の原因になりますから〜」

「ありがと〜 梓ちゃん来てくれて良かったぁ〜」

「ふふふっ」

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