第96話

次の日、僕は普段よりも護衛も増やして、帝の御所に行った。昨日のことを警戒しての行動だ。それに将軍家の御所と違って、目の前ではない。

「帝、ご機嫌麗しゅうございます。」

「うむ、宰相に会えてよかった。最近体調が悪くてのう。しかし昨日は災難だったな。」

「はっ、情報が早いですね。」

「公家大名が1人参加していたのだ。それゆえにな。」

「そうだったのですね。」

「まあ良い。余はいずれなくなるだろう。我が息子を頼む。皇太子と義輝をよく補佐し、天下を戦のない世を、作れ。」

「はっ」

「後は正4位上にいたす。」

「はっ」

「これからも頼んだ。後は謀反人の件よくやったな。」

「はっ」

帝は体調がすぐれないようで、すぐに謁見は終わった。そんなんだったら別にわざわざ会わなくても良いのに。そのまま、今日は皇太子殿下とは会わずに、御所に出仕した。早く伊勢の処遇を決める必要がある。そもそも滞在期間は明後日で終わりだ。1週間の予定だったが、堺にも行くために、少し短くした。だから、今日と明日で全ての任務を終わらせる必要がある。明日は評定だが、そこでは長くて決まらないだろうから、今日先に僕と義兄上が相談して決めておく。僕もいろいろ仕事があって忙しい。公家の人たちとは時間がなくて会えないのは少し残念だが、書簡を送っておいた。今川家の嫡男だから仕方がないと思われたようで良かった。



御所に行った僕はいつも通り、義兄上の私室に通された。

「義兄上、失礼します。」

「彦五郎、表をあげよ。早速本題の、伊勢の処遇について話そう。」

「伊勢家とは元々北条の本家であり、仲はそこまで良くありません。それゆえに庇うつもりはありません。」

「そうか。殿中で剣を抜くのは、許可がないか、緊急事態な限り禁止だ。たとえば侵入者が入ってきたなどな。そうでないと、簡単に殺されかけない。そう考えると、取り潰しは確実だ。後はその一族などの処遇だが。」

「はっ、それは罰金のみを払うことを命ずるので良いのでは。」

「うむ、そうだな。5000貫払わせるか。それはかなりきついはずだ。」

「はっ、それで妻をはじめとする一族は、解放いたしましょう。ただし入京禁止命令、京から追放いたしましょう。今川領からも追放させていただきます。」

「そうだな、よろしく頼む。これで良いか。明日の評定は頼んだぞ。」

「はっ」

伊勢は本当に面倒臭いことをしたものだ。何にもしてこなかったら家族は路頭に迷わずに済んだのにな。いっときの感情で動くとは。そもそも切り付けさせるような発言をしたとは思えないし、主君である義兄上の忠告にも聞かなかった。本当に謎だ。失敗する可能性は高いはずだしなあ。










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