第95話

京での滞在は1週間の予定だ。そして、義兄上に会った次の日、新年になった。僕は、新年を祝う宴に招かれて、参加したが、明らかに派閥対立が悪化している。僕はいつも通り臣下の筆頭である、中座に1人で座ったが、結構僕を睨む人は多かった。その筆頭が政所別当の伊勢貞孝だ。彼は三好と近いと有名だったが、ここまでの敵意を見せてくるとは。僕はほとんど酒を飲まずに、水ばかり飲んでいたが、皆酔っ払ってきた頃だった。急に伊勢貞孝が剣を抜いて、僕に斬りかかってきた。僕は急いで避けようとしたが、とりあえず鞘で受け止めた。


他の幕臣達もあまりの出来事に驚いているようだった。三好も同じくだ。彼の独断か、酔っ払った勢いだろう。しかしここにいるのは全員酔っ払いだ。外の警備している人たちなどはいるが。どうすれば良いものか。

そこへ1人の幕臣が声を上げた。細川殿だった。

「伊勢殿、殿中でござるぞ。」

「今川は奸臣、排除して当然。」

「伊勢貞孝、これ以上刀を抜き続けるなら、謀反とみなす。」

伊勢は義兄上の言葉でも引かなかった。

「彦五郎、抜刀を許可する。祝いの場を台無しにする無礼者だ。切り捨てるが良い。」

「上様、私は上様のことを思って。」

「今川と敵対したら終わる。それをわかって行動せよ。ましてや、余と義兄弟の契りを結んだ弟に。」

「義兄上、この場を汚すのは気にくいませんので、庭にて切り捨ててまいります。」

「うむ、襖を開けよ。」

僕は鞘を抜いて、後ろを掴むと頑張って庭に連れて行った。同時に持っていた剣は無理くり取った。僕の派閥の幕臣も助けてくれた。義兄上は謀反人だから別に何にも咎めなかった。

そして、外に出た。そのまま切り捨てようとしたが、抵抗をしてきた。

「今川宰相、俺はお前を許さない。」

僕は無視して切り捨てた。はあ、本当にびっくりしたし怖かった。常に訓練していてよかった。

「彦五郎、伊勢がすまなかったな。まさか祝いの場にてこのようなことを行うとは。無礼だ。伊勢家は取り潰しといたそう。」

「はっ」

「伊勢家については後で話すとして、あのようなことがあった後では宴は楽しめぬな。今日はこれで終わりだ。」

「はっ」

「彦五郎、今度出仕したら、伊勢について話そう。」

「はっ」

宴は最悪な形で終わった。伊勢は何故急に切り掛かってきたのだ。そんなに僕が憎いのだろうか。そもそも24ヵ国の守護家の嫡男に斬りかかるものか?色々謎が残る。しかし僕を憎む人も当然ながらいるだろう。改めて、警戒しなければと思った。しかし無事でよかった。怪我をせずに済んだのだ。今川家嫡男の暗殺未遂を行ったのだ。僕は特別幕政参与だ。幕府内での立場もあるし、厳罰に処されるだろう。そして僕も処分を言うことが可能だ。どうすれば良いのやら、最悪滞在を延長する必要もあるだろうしなあ。領地で忙しいのに。










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