第70話

毛利殿と義兄上の謁見なども無事に終わって日が経った。明後日は色々大名と会うし、皆年上だから少し緊張している。


そして遂に義兄上の結婚が行われる日が来た。僕はいつもの時間に直垂を着て出仕した。これは正装だ。僕は普段はもう少し楽な格好なため珍しい。義兄上に会いたいとついてすぐに頼んだところ、いつものところに再び呼ばれた。

「義兄上、まだ少し早いですが、結婚おめでとうございます。」

「ありがとう」

「義兄上、緊張されていますか。」

「もちろんだ。」

義兄上の顔は少し強張っていたし、直垂を着て、普段より格段に堅苦しい格好だった。しかしよく似合っていた。

「義兄上、結婚を控えた心境を教えてください。」

「わからないが何か少し寂しい気持ちがある。」

「上様、少し時間が」

「義兄上、忙しい時にお邪魔してすみませんでした。」

「別に良い。少し緊張が薄れた。彦五郎に会えて良かった。また後でな。」

僕は義兄上の部屋を退出して、控え室に戻った。書類を処理していたが、普段より処理スピードも遅かったし、集中できていなかった。義兄上が結婚するとは。史実だともう少し後のはずだが。僕の登場により、京も安定したし、色々変わったのだろう。そう言えば父上と義兄上は昨日何を話したのだろう。父上に聞いたが、一回も教えてくれなかった。教えてもらえないと 逆に気になるというのに。まあ僕に秘密にしたい何かを話したのだろう。一体なんなんだろう。


そして時が立って、一刻ほど経った。今は巳の刻だ。婚姻の儀式が始まる時間だ。僕を始め、幕臣等は大広間に集められた。僕が父上よりも偉い臣下筆頭の席に座って、父上がその隣に座った。なんかおかしい気がするが、義兄上の命令だそうだ。そしてその隣には義兄上の母君が座っていた。すごく緊張する席だ。更に、僕と父上のみが武家で、中座に座っていた。そして反対側には関白様をはじめとする公家の方々だった。僕と付き合いがある人も結構いた。しかしやはり中座に座っているのは関白様のみだ。なんか身分不相応な気がするが気にしてもしょうがないだろう。それに婚姻というのもあって武家はみんな直垂だ。公家らは束帯で、とても格式が高いことを改めて感じさせられる。ここにいるのは皆、ある程度の大名家や殿上家と言われる代々帝に謁見が許される家柄の公家しかいないしな。

「新郎であらせられる上様の御成です。」

ついに主役がやってくるようだ。その場にいた人は皆頭を下げた。官位が義兄上より上な関白様でさえもだ。それだけ足利将軍はすごいのだ。式が今から始まる。人生初の結婚式なのもあって余計緊張する。







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