第63話

「少し寒かったな。すまぬ。」

「いえ、大丈夫です。」

「気のするな。寒いのだろう。」

「はい。」

「急いで行くぞ。」

「はっ」

僕はそのまま奥に連れて行かれた。そしたら温泉見たいのがあった。京に温泉があったっけ?と思った。

「寒いだろう。此処に足を入れろ。暖かいぞ。」

「はい」

温泉ではなく、足湯だったようだが、義兄上は足袋を脱ぎ袴をあげてすでに足を入れていた。周りに椅子があってそこに僕も同じことをした。

「義兄上、暖かいですね?」

「そうだろ。」

「しかし京都に温泉ってありましたっけ?」

「たまたま見つかった。近くに温泉があってな、お湯が湧き出ているのだ。御所の敷地内だ。それを引いて、作った。本当に気持ちよい。」

「はい」

「春には此処に多くの花が咲き、綺麗だ。冬も雪に囲まれていて綺麗だろう?」

「はい、それに足湯があるので暖かくて良いです。」

「そうか。そう言ってもらえて嬉しい。たまには戦乱の世という現実から離れたくなるもんだ。そういう時は此処でゆっくりする。」

「その気持ちはわかります。戦が続いているのは疲れます。」

「特に其方はそうだろうな。沢山の戦に出陣して休んでいる時はとても少ない。疲れるだろう。たまには自然を見て癒されろ。余も彦五郎の人間だ。疲れるし弱い。心の弱さを皆に隠すな。敵対している人物や諸大名にはそうしなければならないかもしれないが、余や其方の側近たちには素のままでいてくれ。」

「はい」

「そろそろ帰るか。」

「はっ」

「明日も来るのか?」

「はい!明日も出仕する予定です。」

「明日はもう少し早く来てくれぬか?」

「何故?」

「共に朝食を食べよう。」

「はっ」

「彦五郎、其方は余が1番信頼している人間だ。もっと楽にしてほしいし、余はもっと時間を過ごしたい。」

「はっ、そういえば義兄上の奥様ってどのようなお方なんですか?」

「何度か会ったことがあるがまあ礼儀正しいお方だ。彦五郎と同い年だが、公家の息女という感じだな。しかし、従兄弟だ。まあ癇癪持ちというわけでもなく、普通だ。しかしまあまあ美しい女性だ。」

「それは良かったです。義兄上によくお方ができて。」

「そうか。次は彦五郎の番だ。」

「そのことはまだ考えていません」

「ははは」

「では義兄上、また明日の朝食の時に。」

「そうだな。また明日」

義兄上は僕の心理的状態を少し心配しているようだった。そして僕にも結婚してほしいようだ。僕は恋愛感情というのが抜け落ちているのかもしれない。前世もそうだった。結構女子からこくはくされていたが、全くときめかず全員断っていたからな。







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