第60話

御所を退出した僕は、今川家の屋敷に戻って、本を読んでいた。御所での話は全て午前中で、午後からは関白殿の屋敷でみんなでまた蹴鞠する予定だった。その後はちょっとした宴会だ。此処には10代の貴族ばかり集まって、みんな結構仲がいい。そこに僕も一回参加させてもらって、その後は前回京に行った時も呼ばれたし、今回も呼ばれた。彼らは月に一、二回集まっているそうだ。蹴鞠が終わった後は、情報交換とかして、戦乱に包まれていた京都でどうやって生き残るかとか話したり、していたらしい。


更に、この集会は新しい人を近衛家派閥である限り歓迎してくれる。僕は近衛家の派閥なわけではないけれど、義兄上のこともあり、結構親しい上に、教養もあって楽しく話せた。京の貴族達は武士を下に見ている事も多いが、源氏の名門で足利家の中でも有力な分家などとなると対等に見てくれるのも助かる。まあそれは僕の官位昇進がとても早く、義兄上のお気に入りというのもあるだろうが。今日の午後も楽しみだ。


京の街は最近、治安がマシになったし、今回の近衛家と将軍家の婚姻に向けて、多くの大名や大名家の嫡男が京に集まってきている。将軍家が少しずつ建て直されている今、大名家も将軍家を無視できなくなっていた。


ただし、越前の朝倉は腰を動かさなかった。越前で権力を持っている朝倉宗滴なら当主自ら、もしくは代理でも来させそうだが、噂によると病に伏しているそうだし、朝倉家が時間の流れをあまり読めないのも仕方がないのかも知れない。


しかし、こうして何も動かないのは幕府への謀反と捉えられても仕方がないのだがな。僕的にはあまり敵対したくないけどこのままだと敵対しないわけにはいかないだろう。


そして今回、京にやってきたのは、有名なところでいうと三好、毛利、長宗我部、大友、大内、島津、龍造寺という感じだ。まあまあの大名だ。それ以外にも大名家はきているが、彼らとは明日少し会うつもりだ。明日は、将軍家御所に出仕する予定で、義兄上に会うのと、他の大名とも会う。今川家は巨大勢力だから、会いたい大名は多い。全員に時間を取るわけにはいかない。そんな事をしていると時間をとりすぎるし、時間の余裕もない。そのため、僕は有力大名と優先的に会うつもりだ。


僕は幕政にも関与しているし、ある程度の権力を父上から与えられているが、根本的にいうと未だ嫡男だ。外交に関しては父上が行ってくれるらしい。その代わり、幕府との関係は僕が中心だ。今までの上洛は全て、僕だったし、将軍の義兄弟としての扱いがある。他の大名からも一目置かれている。



近衛家の屋敷についた僕は、関白殿に妹君の結婚についてお祝いを申し上げると、その後は久我中納言や、他の人間と話した。蹴鞠は上手くなると話しながらできるから公家との間では、結構社交に使える。


この事を考えると、僕は蹴鞠は上手くて良かったと本当に思う。そのおかげでこうして貴族のコミュニティーに参加できるのだろうし。普通に考えて、いくら力を持っていたとしても下手な人を酸化させようとは思わないはずだから。此処で作った味方は何かあった時に強力なコネとして今川家に戻ってくるだろうし、諸大名も公家と関係をよく結んでいる。だけれども、その中でも僕の関係は結構強固だ。


近衛家での宴会は妹君の結婚を控えていることもあってか、お祝いムードで終始楽しく進んだ。まあ僕は和歌が苦手で、和歌を読むことになったのは大変だったけれど、作った和歌が褒められて嬉しかった。彼らと話しながら蹴鞠をするのは社交という意味合いだけでなく、楽しいと感んじられるし、対等な友達の感じで本当に良い。







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