第57話

一旦邸に着いて、変装した旅の武士みたいになった僕は、昌豊を護衛に、藤枝を案内役にして、京の街に繰り出していた。

「ここが市場か。思ったより繁栄しているな。」

「はっ、お褒めに預かり光栄です。此処には毎日早朝から昼頃にかけて市場が開催されていて、今日の物流の中心ですね。若殿の申す通り、税は徴収していません。しかし、農民と同じように収入を我らに出させて、そこから収入に応じた税を出させています。場所代がかからぬためか、皆朝は早朝から出て、より良き場所を取ろうとしているみたいです。それを避けるために、前日の猿の刻より、台帳に予約を入れさせています。そして予約したものには札を渡して、朝、その札を渡したものが決まった場所にかけることになっています。それを我らが必ず確認するようにしてトラブルを減らすよう勤めています。」

「それは良いな。他でも導入するか。それで税はどういうことになっているのだ?」

「はっ、税の割合は農民と同じく、4公6民で行っていまして、その税を幕府と我らで半分に分けています。これは我らに管理を任せるゆえの上様の命令ということで。」

「義兄上に感謝をあとで言っておこう。」

「はっ、その税により助けられているところがあるのでよろしくお願いします。」

「其方もあったことがあるだろう。」

「ありますが。」

「あと、官位に推薦する。」

「何故?」

「公家との交流もあるだろう。」

「はっ」

「官位があった方が便利だ。後でそうだな美濃介だ。位階は正6位下だ。義兄上と帝に頼んでおこう。明日会うゆえな。」

「はあ?ありがとうございます。」

「美濃守は余だ。余の部下ということがわかりやすいだろう。反対は出ないはずだ。」

「はっ、」

「あそこはどうした、急に活気がなくなっているが。」

「貧民街です。職業を与えているのですが、それでも貧民は残っていまして。今も無くすように頑張っています。」

「まだ多いが、マシか。昔はもっと酷かったもんな。」

「はっ、着任当初よりだいぶマシになったと思います。」

「これからも頑張れよ。」

「はっ」

そして僕は危険なため貧民街には入らずに、そのまま残りの市場を回って邸に帰った。しかし藤枝の官位のことは忘れていた。京都奉行だから公家と接するのだ。いくら大名家の家臣だといえど公家は田舎者と馬鹿にする傾向がある。流石に、蹴鞠などができて、名門家で参議の僕を馬鹿にする人はいないが、藤枝は僕の小姓上がりだ。蹴鞠とかももちろんできるが、官位があるに越したことはない。低くてもあるのとないのとには大きな違いがある。秀吉や光秀も京都奉行をやっていたが官位を持っていたのと同じようなことだ。







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