第17話 お隣さんなんて聞いてない!
二号ちゃんに手を引かれつつ俺は噂の“針山ジェットコースター地獄の業火に裁かれろ ver”の乗り場に到着した。
すでにジェットコースター乗り場は多くの客で溢れていて大盛況だ。
ジェットコースター自体はそこそこ早く、乗客の悲鳴というか叫び声がさっきからパーク内に絶え間なく鳴り響いている。
乗り場前の立て看板には『身長一三〇センチ以下、12歳以下のお客様は乗れません』といかついフォントで書いてあるのだが、気になるのはその下
『本アトラクションは設計上、衣服や髪の毛が燃える危険性がございます。乗り場にて希望の方は防火カッパを用意しておりますのでスタッフにお声掛けください』
とそこそこ小さく書かれている、絶対こっちの方が重要な話だろ。
あ、黒夢ロボが言っていた『燃える』ってこれのことか?
まぁいくら足掻こうと結局一緒に乗らないといけなそうだし、唯一の救済である防火カッパの性能を信じて乗るか…
「神無さん!早く並ばないともっと混んできちゃいますよ!」
「お、おう」
それからスタッフに防火カッパをもらって三十分ほど経った。久しぶりに同じ場所で長い時間待った気がする。俺が待ちくたびれて背伸びをした瞬間、後ろから肩を軽く叩かれた。
「ん?」
俺が後ろを振り返ると
「やっぱり神無さん、女の子連れてきてたんですね〜」
「え…地獄谷さんと花園さん、なんでここに…?」
「そりゃ、ジェットコースター乗り場で神無さんが女の子連れて入るの見たら追跡つるしかなくないか?」
「はぁぁぁ……」
「ねぇ、お嬢ちゃん、このお兄さんとどういう関係?」
地獄谷さんがお仕事フェイスで二号ちゃんに話しかけるが二号ちゃんは人見知りの子供のように俺の影に隠れた。
「二号ちゃんが困ってるだろ!」
「「二号ちゃん?」」
「あ」
俺は今までの事情を二人に必死に説明した。
「黒夢部長が何思ってるかがよくわかんないけど、つまりこれは擬似恋愛ってこと?」
「ああ、そうだ、多分」
「ちょっと揺らいでるじゃねえか」
「まぁまぁ、そうならいいんじゃない?この子は女性の形をしてるロボットなんだし…いざとなれば性転換させちゃえばいいのよ〜」
花園さん、それだけは色々な誤解が生まれるからやめてくれ。
「そういえば、順番的に次で乗れるんじゃないかしら?」
ふと前を見ると結構列は短くなっている。
「お次の方どうぞ〜!」
コンセプトが地獄の割には元気なスタッフに案内されて俺たちはジェットコースターに乗り込んだ。
「二号ちゃん外側と内側どっちがいい?俺外側乗ろうか?」
「ウチは外側乗りたい!スリル満点やし!」
「そ、そうか」
二号ちゃんは割とホラーゲームとかが好きだし、スリルを求めるアクションには多少慣れているのかもしれない。
「次の方でラストですかね!」
次の方…俺の隣が空いている…
「やったー神無さんの隣だー!」
「地獄谷さん?私の隣は嬉しくないんですか?」
「ごめんごめん…」
「地獄谷さん彼女に嫉妬されてますよ?俺じゃなくて彼女をかまってあげてください!」
「まぁまぁ…せっかくだし一緒に楽しもうよ〜!」
そんなこんなでわちゃわちゃしているとカンカンカンとジェットコースターが動き出した。
コースターは最初の急勾配を徐々にゆっくりと登り始める。
防火カッパの準備は完璧、心の準備は多分、大丈夫!
コースターの先頭が頂上まで到達し、俺は首もとのバーをぎゅっと握りしめる。
次の瞬間コースターは猛スピードで坂を走り出す。俺らを含む叫び声が風に流されていくがそれよりも目の前には炎の壁が迫っていた
「うわあああああああ!しぬううう!!」
そう叫んだ時にはコースターは最初の乗り場に止まっていた。
◇ ◇ ◇
「あはは!神無さん、死ぬぅっていうてましたね〜」
お隣の地獄谷さんたちと別れてから、どこか安心したように二号ちゃんは腹を抱えて笑う。俺は防火カッパのおかげか燃えずに済んだが乗った後に防火カッパを見たら頭の方が見事に焼けこげていたので、もし防火カッパを着ていなかったら俺の頭はパンチパーマのようになっていただろう。
「はぁ…二号ちゃん、次どこ行く?っていうか時間的に次が最後か?」
「うーん、じゃあ、あそこ行きたい」
そう言って二号ちゃんが指さしたのは夕日に赤く染まりゆっくりと回る大きな観覧車だった。
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