第10話 ロボットなんて聞いてない!
「俺が…『恋を教える』!?」
思わず大きな声を出してしまった。
(どう考えても俺より恋愛経験あるだろギャルだし!可愛いし、綺麗だし!それよりも俺は女性関係は政府からNGが出てるって言いませんでしたっけ!?)
頭の中の長文文句はスラスラと出てきた。が可愛い女の子が上目遣いで目をうるうるさせて何か懇願していると大抵の男は大体断ることはできなくなる。
「えっと……どうして俺なんですか?」
黒夢部長は少し考えてから
「んー…単純にタイプに合ってる…から?」と言った。
俺は「無理です!ここだって鬼とかいっぱいいるじゃないですか、俺以外の人をあたってください!」
俺は正直ちょっと言いすぎたと思った。
「…明日神無くん休みでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ明日、この紙に書かれた場所に来てくれない?見せたいものがあるんだ」黒夢部長はそう言いながら小さな名刺サイズの紙を俺に渡した。紙には住所と電話番号と小さな地図が書かれていた。
「え、ちょ…」
「明日、待ってるよ!」
その声を聞いた時にはもうどこにも黒夢部長の姿は見当たらなかった。
薄ぼんやりした闇に赤い提灯の灯りと喧騒がこの場所を散らかしているだけだった。
————家に帰り、一晩中悩んだ末に俺は紙に書かれた場所に言ってみることにした。電車に揺られながら地図の場所を目指して1時間ほどかけてようやく指定された場所に到着した。
「…ここか?」
着いた場所は墓地だった。こんなところに一体何があるのかと辺りを見渡す。
するとプレハブのような小さな小屋を発見した。
(もしかしてここのことか?)
と勘付いた俺は植物のツタが絡まりつつある小屋のドアノブを捻った。
キィィとドアが悲鳴を上げるように開く。扉の向こうは階段になっていて若干水が溜まっている。そしてその奥には青白い裸電球が一つぶらーんと天井から降りていてその下にマネキンのようなものが横たわっていてそのまた奥には重厚な鉄の扉がある。まるでホラー映画のワンシーンだ。
(ガチでこういうの苦手なんだよぉ…勘弁してくれ…)
俺は思わず目を背けてもう一度ドアノブに手をやる
ズルッ「!?」
臓物が飛び出たマネキンがカビの生えかかった壁をつたいながら起き上がって近づいてきていた。
「うわあぁぁああああ!!」
「うるさいなあ…あ!神無くんじゃーん!」鉄の扉がガコッと音を立てて開いて中からツナギの作業服を着た黒夢部長がそこには居た。
「く…黒夢ぶちょ…う?」
「このロボット?これはベータ版の一個体なんだけどなんかバグって直せなくなちゃったから壊れてるけどここの案内ロボしてるのー」
「いや、そういうことじゃなくって…なんでこれ黒夢部長とおんなじ顔なんですか…?」
「あー…ウチ実はロボットなの」
「え?てことは今喋っている黒夢部長も?」
「うん、元々の体が融通効かないから作ってもらったの」
まさかと俺は思った、目の前にいるのは人間の姿と声がする正真正銘の人間。ロボットには到底見えない。
「証拠とか…あるんですか?」
「ん?あるよ?」
そう言って黒夢部長は服を脱ぎ始めた。
「ちょ…!?待って待って心の準備がッ!」
俺は目を覆ったが指の隙間から見えたのは胴体の真ん中あたりが透明に透けていいて中に構造が見えるようになっている黒夢部長の裸体だった。
疑っていた俺も流石に人間ではないと確信を得た。
「黒夢部長がロボットなのは分かりました、でもなんで俺が呼び出されたんですか?」
「そうだね!それを説明してなかったね!こんなカビ臭いところで話すのもヤダから、中で話そ」
俺は奥の鉄の扉の中に入った。
中は見たことない魚のような生き物が飼われている水槽やボロボロのソファーと赤い絨毯、いろんな色のケーブルが蛸足になって絡まっていて足の踏み場もないし、もう明かりの弱くなっている蛍光灯がチカチカしていて少し目が痛い。
「じゃじゃーんウチの秘密基地ー!」
「よくこんな環境で暮らせますね…」
俺はこの人がどんな人だか大体わかってきた気がする。
よくわからないコードを極力踏まないように爪先立ちでソファーまで辿り着いた。
黒夢部長改め黒夢ロボはひょこひょことコードの存在なんか知らないような足取りで、お客の俺より先にソファーに座った。
「で、昨日の『俺が黒夢部長に恋を教える』ってなんなんですか?」
「正確に言うとウチの分身に恋する心があるか確かめて欲しいってことなんだ」
「なんで恋する心を確かめるんですか?ロボットなのに?」
「その分身にはもっと細かい業務をやってもらいたいから思考回路なるべくおんなじだって確証が欲しいんだ〜あと、単純にロボットに恋という概念が生まれるのか興味があるし。」なんとも突飛な話だが俺自身も少し興味はある。
「でも俺は何すればいいんですか?あと女性関係のことが政府にバレたら俺おしまいですし、スパイとかいるかもだし…」
「それは問題ないよ、ここで実験するから!」
確かにこんな場所なら確かに人でも少なくて入り口からして気味が悪いし、興味本位で入ってくる人なんて俺ぐらいしかいないだろうし、何よりもまた黒夢ロボのめがうるうるしている。
「はぁ…やりますよ…」ここまで説明されてやらないなんてなんか可哀想だ。
「やったー!」黒夢ロボはバンザイして喜んだ。
(マジでロボットなんだよな…?)
そんなことを思いつつ俺はもう一度ため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます