第3話 お誘いなんて聞いてない!
これまでの状況を整理すると
俺は死んで地獄の不動明王に若さとバス運転手としての技術を買われて
この『冥界運行株式会社』の社員になったが
社内は美女だらけでなおかつ
俺は女性関係を持ってはいけないと言う制約でなんとか首の皮一枚繋がってい
る状況
絶対これは誰かに誘惑される展開ッ…!!!
誘惑に引っかかったら多分俺は地獄行き確定だ…
そんな感じでひとりでに絶望する俺を無視して
口帰ふみ(くちがえりふみ)課長は向かい合って並んだ何も乗って居ない白紙の状態の机に案内した。
「ここがあなた達の席よ、おにー…じゃなかった、神無くんは今座っている
花園さんの隣で、安楽さんは花園さんの向かいの地獄谷の…こほん…地獄谷さんの横ね〜」
(今ナチュラルに呼び捨てしかけたな…)
(今一瞬呼び捨てしてたような…)
「あと新人二人の教育も隣のお二人に任せることにしたから、そこんところよろしくね!」
となぜかイラつくような笑みを浮かべて口帰課長はデスクに戻って行った。
トントンと誰かが俺の肩を軽く叩いた。
振り向くと隣の机の花園さんの後光が若干眩しかった。
「私、花園蓮華(はなぞのれんか)と申します。種族は…見ればわかりますよね仏です」
仏の種族は距離感が人とは違うのかなぜかめちゃくちゃ至近距離で話されている
美女にじいっと見つめられているので俺は自然と目線が下がってしまった
肌が少し透けるくらいの黒いストッキングがムチムチとした太ももを締め付けている。
白のワイシャツが花園さんの相当大きな胸の輪郭を形作ってお腹ら辺に
影を作っている。
俺は思わずごくりと生唾を飲み込む。
「どうかしましたか?ふふっ、人間って可愛いですね…
仏だったら確実に私の身体なんてじっと見つめませんもの」
(見てたのバレた…)
俺が赤面するのを見て花園さんは優しく微笑んだ。
「じゃあ神無さんは不動明王庁の方で手続きを済ませているから
早速研修になるわね」
(早速研修か…生きてれば現世でやっていたことを地獄でやることになるとは…)
この日から花園さんとの怒涛の新人研修が始まった。
黒と白が基調のシンプルな制服を着て
地獄の制度法律やバスに少しでも関わることなら全て叩き込まれた。
入社して最初の一週間はそうして過ぎて行った…
「これで私との研修は終了!神無さんよく頑張ったわね」
「はい!本当にありがとうございました!」
俺は深々と礼をした。時刻は午後10時、とっくのとうに残業だが
美女と個室で長時間二人きりはもはやご褒美だった。
俺は暗くなった窓の外を見た。
「もうすっかり夜ですね〜まあ、現世と違って月は見えないけど…」
手慣れた様子で花園さんは俺のタイムカードと自身の名前の入ったタイムカードをピッピッとタイムレコーダーに通した。
「あっ、花園さんありがとうございますっ」
「なんてことないわ、神無さん、最初の一週間お疲れ様」
疲れているのはお互い様だと思うが花園さんは仏の顔で俺を労う。
しばらく階段をおりる二人の足音だけがビルの中に響いていた
ビルの外に出た。辺りは街灯の灯りが点々と続いている。
「俺、家こっちなんで!お疲れ様でした!」
「待って」
花園さんは俺の手を掴んだ。
「神無さん、今から空いてますか…?」
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