第2話 女の園なんて聞いてない!

地獄に来てから一週間が経った。今日から地獄のバス運転手としての第二の人生?が始まる。

地獄政府から直々に提供された真っ黒なリクルートスーツと革靴

死んだ日とほぼ同じ服装で俺は特例措置で住んでいる公営住宅のドアを開ける

ちなみに俺ら亡者の身体は幽体だが物は掴める

多分スタンドみたいな認識でいいんだろう


生きていた時のように青い空は拝めないが

鬼も近年の研究で日光を浴びた方が健康に良いらしく

極楽にある極楽電力株式会社と連携して地獄でも日光は浴びれるらしい


地獄のことで知ったことは他にもある。

一つ、地獄で生活する者は仏でも、鬼でも地獄民という括りらしい。

つまり俺も地獄民だ。

二つ、これは当たり前っちゃ当たり前だと思うが

一応俺は亡者なので地獄民にとって死装束以外の亡者は珍しいらしく

よく信号待ちの列の中で写真を撮られる。

ちなみに少し人間と似ている

仏は少し発光していたり、ヒラヒラした服を好む傾向があるため思ったより

見分けがつきやすい。

(まあ死装束着てない亡者地獄で俺だけだけど…)


そんなところで小さなビルへ到着した

『冥界運行株式会社』が俺の入社先のバス会社。立て付けが悪いのか自動ドアが

ガガガッと歪な音を立てて開く

(おいおい、本当にここであってるよな?)

寂れて明かりのついてないロビー、切れかけのの蛍光灯がバチっと音を立てるので

俺は少し不安になったが

ロビーの壁に古そうな黒板がかかっていて『五階 冥界運行』とだけ

控えめな字で書いてあった。

(ホラーゲームの登場人物ってこんな感じで探索するんだろうな〜)と

どうでも良いことを考えて俺は階段を登る。

二階、三階、そして四階に近づいたところで何かぶつぶつと繰り返すような声が聞こえる。

流石に鳥肌が立って来た。(幽体だから皮膚はないけど…)

その声はどんどん近づいてくる冷や汗ダラダラで踊り場を通り過ぎようとする


その瞬間キュッドタンっという感じの音が背後から聞こえた

「いたたた…」そこには俺と同じく黒いリクルートスーツを着た同い年くらいの女の子がいた。

(俺以外に新入社員なんていたのか!)

と内心ガッツポーズをした。痛そうに足をさする女の子に

俺は「足痛そうですね、立てますか?」と優しく声をかける。

決して仲良くなろうとかそんなことは考えていない、絶対に。

女の子は「大丈夫です、ありがとうございます!もしかして貴方も冥界運行の新入社員ですか?」

俺は「はッはい!そうでしゅッ」

久々の女の子との会話で盛大に噛んだ死にたい(死んでる)

「あはは、じゃあ私たち同期ですね!」

女の子の言葉は俺の中でこだました

(めっちゃいい子じゃん…)

俺の貧弱涙腺は少し緩んだ


「五階まであとちょっとです!いきましょ…ううッ」

女の子が痛そうな声を上げた

「どうかしましたか!?」

「さっきは社員規則確認しようとしてスマホ見ながら階段登ってたんです

自業自得ですよね…あはは〜」

「足痛いなら、俺がおんぶします!」

「!?おんぶ!?私多分重いですし、自分で歩けますよ〜…」

女の子は首を横に振りながら遠慮する

「俺は昔から人の困った顔とか見ると救ってあげないとって思っちゃうんです」

女の子は少し迷った後に

「じゃ、じゃあ失礼します…?」と言って俺の背中に身体を預けた。

むにゅっ

背中に当たる柔らかさに少しニヤけてしまった。

(俺って最低だ…)

俺は女の子の太ももを支え階段を登った

キュッキュッと階段を登り終えたところで、カツカツとハイヒールの音がする。


俺は目を疑った

地獄に来て1日目のバスを運転してたあの少女が部屋に入って行ったのが見えたからだ

俺は堪らず女の子を背中に背負いながら走り出した

「きゃ〜!」女の子は背中から落ちないようにしがみつく

シャンプーのいい匂いがした

そのまま俺たちはビルの一室に駆け込んだ

「ありがとうございますッ!」

女の子は若干恥ずかしがりながら俺の背中から降りた

そして肩で息をしている俺に

「はい、冷たいコーヒー」

と紙コップに入ったコーヒーをくれた

「ハア…ありがとうございます…」

そう言って俺は顔を上げた

すると少女は俺の顔を見るや否や

「あ〜〜〜!」と叫んだ

そして少女は俺たちをオフィスの全体が見える場所に連れて行った


少女は少し声を張った

「おはようございます口帰です

今日から入った新入社員の二人です。右から自己紹介をしてください」

先ほど視界から消えた女の子はいつの間にか俺の右隣にいた


「安楽椎奈(あんらくしいな)です!種族は一応人間です…

お客様や地域の方とバスの運行を通して良好な関係を結ぶことを目標に頑張ります!

これからよろしくお願いします」と丁寧なお辞儀をした


(安楽さんっていうんだ…)

「次はおにーさん」

無駄に艶っぽい口帰ちゃんの声

俺の中で何かが少し揺らいだ

気を取り直して自己紹介

「神無正悟です!えっと…種族は人間です

昔からバスの運転手に憧れていたのでこれからの業務も邁進していきたいと思います

よろしくお願いしますっ!」

自己紹介を終えた俺は重大な事実に直面していた

社内を見渡すと居合わせた仏、鬼全員女性に見える

髪の薄いおじさんが、いっつもタバコくさいおじさんが一人も見当たらない

なんならおばはんもいない


この会社は二十代から四十代までの美鬼、美仏、美人だらけだ

俺以外に今の所男は見当たらない

不動明王はこのことを知っていたんだと

俺の先入観もいけないとは思うけど

(バス会社が女の園なんて普通ないだろおおおおおおおお)

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