遠野かくりよ婚姻譚 ~ 神に娶られ花嫁修業。お料理と、山の恵と米づくり
からした火南
第一幕 神に娶られ花嫁修業
第1章 凜華、神隠しに遭う
第01話 良く眠れましたか?
最初に感じたのは、柔らかく包み込むような温もりだった。
日溜まりの中に
寝ぼけ
「何処だ、
目を擦りながら記憶を
今日も朝一番から、新入社員研修の予定だった。うっかり寝過ごしてしまい、化粧もそこそこに家を飛び出したはずだ。いつも通り会社に向かったのだけれど、そこから先の事をまるで憶えていなかった。
身を起こそうとして、頭上の気配に気づいた。見遣れば
醒め切らぬ目で男に見惚れた。
風に揺れる
素直に美しいと思った。
美しいなどと、男性の容姿を表現するのに適当ではないことは解っている。しかし、そう表現する事こそが
「良く眠れましたか?」
問われてようやく我に返った。
あわてて飛び起き後ずさる。
どうやら見知らぬ男の膝枕で眠っていたらしい。
想定外の状況に、短く悲鳴を上げた。
「だ、誰だ。君は!?」
「おやおや、忘れてしまったのですか?」
縁側に腰掛ける男が、寂しげに眉根を寄せる。
見つめられて、思わず視線を外した。逃げるようにして、隣に座る男から距離を取る。
まさか、見ず知らずの男性に身体を預けていただなんて。膝枕とはいえ、これはもう乙女のピンチではないか!
「お疲れでしょう。もう少し眠りますか?」
そう言って男は、着流の膝を叩く。
「い、いや。結構……だ」
思わず返答が尻すぼみになってしまった。
「それでは、湯浴みをされては如何です? 裏手に温泉が
のんびりとした物言いに、思わず気が緩みそうになる。いや駄目だ。こんな状況で油断している場合ではない。落ち着け、落ち着くんだ……。
「ど、どうして僕は、こんな所に?」
「困りましたね。
不意に名を呼ばれて絶句した。
僕の名を知っているだって!? 名乗った憶えなんて、無いはずなのに。
状況がまるで理解できず、混乱は増すばかりだ。
「
「し、祝言!?」
「それまでどうぞ、
「誰の祝言……なの?」
僕の問に、
「凜華さんですよ」
「ぼ、僕!? 誰と??」
「私です」
答えて男は涼やかに笑った。
いやいや、待て待て。待ってくれ。
祝言だなんて、何を言っているのか。結婚に憧れがないと言えば嘘になるが、そんなの僕には早すぎる。まだ社会人になったばかりだというのに……。
いや、落ち着け、落ち着くんだ。素数を数えろ!
そもそもが早い遅いの話ではない。見ず知らずの男性から、求婚どころか祝言が決まっていると告げられているのだ。そんなもの「はい、そうですか」と受け入れられる訳がない。
そうか、夢か! さてはまだ、夢を見てるのだな!
思い切り頬を
夢ではない……だと!?
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